3-1
体を包んでいた光が消えていくのを感じ、目を開こうと瞼を震わせたのと、ほぼ同じタイミングだった。ユーは腹部に何者かからの突進をくらい、地面に仰向けに倒れていた。その拍子に頭を強かに打ち、涙目になりながら低く唸る。
「な、なに……」
耳に届く声は龍の雄叫びの様で、しかし迫力が全く感じられないそれに、ユーは自身に馬乗りになっているものへと焦点を合わせた。
――漆黒の瞳と鱗を持った、子龍だ。その子は幾筋も涙を流し、声を上げている。
「困っているだろう、止めないか」
続いて聞こえた懐かしい声は、その子龍をそっと抱えあげた。ユーは体を起こし、彼を見上げる。
「ライトニアさん、その、その子は?」
「あぁ、オレ達も同じ質問をしようと思っていたところだ」」
ジューメに手を貸してもらい、立ち上がった。ライトニアは苦々しい表情を浮かべながら、ユー、ジューメ、ヴェント、アンスの四人から視線を逸らす。
「……コン、だ」
「は?」
「以前、この世界でお前たちに、その、結果として奇襲になっていたわけだが……遊びを吹っかけたコンがこの子、なんだ」
四人は思わず、目を点にしたまま、黒い子龍を凝視した。
三年前、裏世界に来たばかりの時に奇襲してきた、ユーに姿が瓜二つだった少年、コン。
それがこの、声を張り上げるようにして泣いている子龍だというのか。
「ライトニア! 一体何が起きている、ダリエスが扉を見張っていたのではないのか!」
「あちらの世界で、憎き魔界の住人がなだれ込んで来たぞ、ダリエスはどこに」
「その子は何だ、ダリエスの子か! ならば、彼自身はどこにいるのだ!」
「こちらから異変を感じ取ることは、出来なかったのか」
子龍について考えを纏める間もなく、四頭の龍が一度にライトニアへ詰め寄った。彼が抱えるコンはそれに怯えるようにして更に声を張り上げ、四頭の方向を同時に聞いた竜人たちは耳を塞ぎ、互いに身を寄せるようにして恐怖の視線を龍たちに向けている。
「落ち着かないか、今の竜人たちにしてみれば、我々の声どころか咆哮など聞いたこともないのだぞ。それをこう、四頭同時に吼えられては」
「話を逸らすな!」
「まだ以前の爪痕が残る中に、これだぞ! 我らが愛する大地が、これに耐えられるとでも思っているのか!」
突如襲った、体の芯まで響いてくる破裂音に、吼えていた四頭の龍と竜人たちは一切の動きを止めた。衝撃の正体を突き止めるのに数秒の時間を要し、それぞれは振り返る。
「落ち着け、同時に話していたら解るものも解らなくなる」
ユーが、棒を地面に叩き付けた格好で、僅かに顔を上げていたのだ。
「ユー、今の、お前?」
「そうだよ」
「その、なんだ。よくその得物が耐えたな……」
ジューメは、自身でも驚くところが可笑しいだろうと苦笑していた。ユーは棒を短くし、掌で遊ばせるとズボンのポケットにしまう。
「当然、耐えられるでしょう。あれは私がユーさんに頼まれて作ったものですから」
平然と言い放ったアンスに、ジューメは彼を見た。どこか不敵にも見えるその笑みに、一つだけ心当たりのある、この衝撃に耐えられる素材。自身の尾を見る。
「あなたの鱗の成分はまだ、しっかりと頭にありますので」
「……そうか……」