15-4
「……そうだね」
ユーは右の手袋を口でくわえ、引っ張った。三人に見せるように手の甲をテーブルの中心に運び、目を細める。
――そこにある眼は、閉じていた。
「魔界から戻ってきて、目を覚まして。真っ先に確認したんだ、それまではずっと開いていたのに、変わってた」
「もう、眼の力は使えないの?」
「うん。何度か挑戦してみたけど開けないし、マトゥエも出せない。……やつも、魔界が消える、みたいなことを言っていたし。魔界の闇に侵蝕されていたものも、元に戻った。だから裏と表を切り離しておく必要がなくなって、ライトニアとコンもここにいられるようになった」
ユーはイスの背に寄りかかり、天井を見上げた。しばらくボーっと上を見つめていたが、不意に微笑むと三人を見る。
「へへへ、そう言えばもう一つ、報告しないといけないことがあったんだ」
「なに?」
「ボクはもうすぐ、父親になるよ」
ユーの言葉に、三人は動きを止めた。静寂が辺りを支配しかけたその瞬間、叫び声が場を満たす。
その声に、いたずらに成功した子供の笑い声を上げ、ユーは腹を抱えた。
「なにそれぇええ!」
「お、おいおい! マジで? ラポートの腹に……?」
「わ、私は度々、ユーさん達に会っていましたが……気づきませんでしたよ……?」
「内緒にしてたわけじゃないんだ。子供がいるっていうのがわかったのも、最近の話でさ」
手の甲に描かれる眼を見つめ、ユーは柔らかな笑みを浮かべた。それから器用に手袋をはめ直し、置いていたコップを手に取る。
「アンス、図書館の件はどう?」
「えぇ、建物もほぼ完成して、ルシアルの方々に手伝ってもらいながらコンダムさんの書斎にある文献を運んでいますよ。近々開館出来るでしょう、駆けていた文献も、どうにかラポートさんに修復していただけましたし」
「じゃああとは、その文献にこの戦いのことも追加しないとね。……この眼がある限り。またいつ、魔界が蘇るかわからないから。これだけは、眼が存在する限り……この血は絶対に絶やせない」
言いながら立ち上がった彼に、他の三人も釣られるように立ち上がった。静かに、ユーのことを見つめ、ユーはその視線を受けながらコップを軽く上げる。
「だけどさ。今は……この平穏に浸かってても、いいよね?」
「それくらい、許されるようなことはしただろ。十二分に」
「満喫しようよ、今、この時をさ」
「無論。このことは後世に伝えていきますが。……『五人の英雄』のうち、四人として」
「うん。……コンダムを加えた、五人。でね」
ユーが上げたコップに、ジューメが、ヴェントが。少し背伸びをするようにしてアンスが、自身が持っているコップを軽くあてた。すでに夜は深く、満月の光と、ジューメが浮かべてくれている仄かな炎だけが部屋を照らしている。
「……ありがとう、みんな」
「ふふ、それはきっと、ボク達の言葉だよ。ユー」
四人は一緒にコップを空にして。月が沈み切り、陽が昇るまで話明かしたのだった。




