15-3
――焼かれる。絡みつく闇に、皮膚を、腕や目を。全てを焼かれているのがわかる。助けてくれと叫ぶ声帯すらすでに引きつってしまい動かず、ヴェント達に早く逃げろと示せる手段はなにもない。
「……に」
低い声がしたかと思うと、ユーは体を別の何かに絡め取られ、闇の中から引きずり出されていた。光で包まれているのがわかり、ジリジリと焼かれていた体が安らいでいく。
「レガー様の、忘れ形見……。てめぇなんかに、くれてやるかよ」
「バカな……サンヴァー様の呪力により生かされていた貴様が、なぜ、動ける……!」
「言っただろ……竜人の、呪力だと」
力を振り絞り、かろうじて左目を開くことが出来た。頭から、口の端から。隠れている服の下からも酷い出血をしながら、それでも口角を吊り上げて笑うコンダムが、掌に光を灯して自分を包み込んでいる。膝をつき、肩で息をしながらも、ワナワナと震えるサーを見上げていた。
「オレは……こいつを、こいつの父親に頼まれた……。絶対に、生きて国に帰すと。なにが、あっても」
掠れる声すらも、笑っているようだった。光が無くなっていくとかろうじて残るツタでユーの体を優しく持ち上げ、コンダムはゆらりと立ち上がる。
「なぁ、おっさん。似た者同士だよなぁ、オレ達」
ギチリと、彼の腕が悲鳴を上げた。フラフラと体を揺らしながらも、ユーを支えるツタだけは決して揺らさない。
「片や魔界に世界を売り、片やその片棒を担ぎ……」
コンダムの体が、崩れていく。それでもユーを支える力は優しく、彼に手を伸ばそうと必死に腕に力を込めるも、まるで自分の体が人形になってしまったかのように動かない。喉からは空気が流れる音が聞こえ、頬を何かが走っていくのを感じていた。
次の瞬間。コンダムはユーの体を、思い切り投げていた。眉間にしわを刻みながら高らかと笑い、羽根がボロボロと抜け落ちるのも気にしないよう純白の翼を広げる。
「光と闇の、役目を忘れたクズ同士! 仲良く逝こうや、なぁ!」
「……そのあとは、よくわからない。確かコンダムがサーに向かって行って、あいつにツタを絡めて……」
話ながら、ユーは机に突っ伏した。あの時から今でも、目を閉じれば瞼の裏に、あの時の光景がよみがえる。
「一人で魔界に行ったときも、帰りはコンダムが呪力で送ってくれたんだ。たぶんそれと同じで、ボク達を裏世界に送ってくれたんだと思う。……あ、なんか腹が立ってきた」
勢いよく体を起こしたユーに、ヴェントは首をかしげた。ユーはアンスの傍にある茶に手を伸ばし、口の中を湿らせると苛立たしそうに言う。
「最後の最期で、本当に美味しいところ持って行ったよあの人! しかも、全部!」
「お前が言うかああ!」
「ユーは人のこと言えないでしょ!」
「あなたがそれを言いますか、あなたが!」
三人からの総ツッコミに、ユーは飲んでいた茶を吹き出して頭をすくめた。
「てめぇ、見てるしかなかったオレ達のこと少しでも考えたか、こんのクソガキ!」
「いやぁ、周りに魔界の住人がいるならまだしも、サンヴァーしかいなかったあの空間でまさかの戦線離脱だったからね、しかも強制的な。微塵も予想してなかったよね、本当にさぁ!」
「ど、れ、だ、け! 寿命が縮む思いをしたと!」
「ご、ごめんごめん! ていうかそれ、ボクのせいじゃないからね! 三人を放り投げたのはコンダムだからね!」
「お前、あの時死ぬつもりでいただろうが! 目ぇ見りゃあわかったぞ、そんくらい!」
指を限界まで開き、手首の返しを利かせるようにしてジューメがユーの背を思い切り叩いた。それに涙目になりながらもユーは苦笑し、コップを置いてむせる。
「いや、うん……言い訳はしないよ。サーが世界の裏切り者だって知ってから、ずっと考えてはいたんだ。あいつが竜人なのか、魔界の住人になっていたのか。もしそうだったら……って。それで結局、あの時ヴェントと戦う羽目になってさ。ボクは」
「ユー、それ以上言ったら、わかるー?」
ギリギリとヴェントに頭を押され、ユーは大人しく口を閉じた。
ふと、手を握られ、そちらに視線を向けた。
「アンス? どうしたの?」
「あ、いえ。眼はどうなっているのかと思いまして。……まだ見ていませんでしたから」




