15-2
「直接聞いてきたよ。どうやらオレは、本当にソーリスの子だったらしい……」
空にした自分のコップと、空になっているユーのコップに並々と酒を注ぎながら、ジューメはきつく眉を寄せていた。酒を注がれてしまったユーは、本当はあまり得意ではないのだがこんな時だからと、置いていたコップを再び手にする。
「興味深いですね。一体、どういった子の生し方をするのです?」
「龍にはそもそも性別がなく、単身でも子を作れるらしいんだ。その中で炎の龍は、炎の竜人の体を借りての子作りをするらしい。早い話、メスの竜人に呪力を注ぎ込んで分身を生みつけるわけだ」
「まるで寄生」
「言うなバカ弟子。昔、まだ龍が普通に過ごしていた頃は、角と尾が生えた子が生まれたらすぐに龍の元に連れて行かれていたらしいんだ。……そんなものを今望むなよ、今! お前ら伝説でしか残ってなかっただろうが!」
コップを机に叩き付け、肩を震わせながらジューメは机に突っ伏した。ブンブンと振られる尻尾はなんとなく、嬉しそうだ。
「挙句にあの野郎、オレの子の証拠だと言いながら、予告もなしにマグマの中に引きずり込みやがった……! オレが竜人じゃない、って証明だ。この角と尾は、異端じゃなかったんだなぁ」
「そうだよねぇ。フフ、だからあの潜水艇を見た時、ソーリスさんの機嫌がよかったのかな」
「なんかさ、尾の鱗が背中の方にまで広がってるみたいで。そのうち、完全に龍になるんだろうね」
突っ伏すジューメの上着をヒョイとめくりあげ、ヴェントは彼の背を二人に見せた。確かに、半分ほどはすでに真紅の鱗に覆われており、よく見ると肩口にまで広がっている。
「しっかしなんだい。伝説だ―とか、過去の言い伝えだ―とか言いながら。目の前にいて一緒に旅をしていたなんてねー」
「他の龍も、教えてくれればいいじゃないか……」
「さんざん、龍の子とは呼ばれてたけどね。まさか本当の意味で言ってたなんて、思いもしなかったよね」
頬をほんのりと染めながらもたれかかってきたヴェントに、ユーも寄りかかり返した。コップを口につけ、彼の腕にそっと触れる。
「ヴェントも、どうしてジューメと同じ道を行こうと思ったの? 両親に、反対されなかった?」
「されたけど、言っても無駄だってことをわからせた。まぁ……なんだろう。ジューメもサデルも、カッコいいと思ってさ。だからその背を、追いかけたいなって」
ふにゃりと目を細め、フワフワとした笑みを浮かべながら話した。お酒の力もあるのだろうがふと出た彼の本音にだろう言葉に、ジューメの口の端が緩く上がる。
「でもさー二人とも鬼だよ、ホント……。なにこのコンビ。サデルなんて、片足が無くなってても超現役なんだけど。修行つらい」
「なんか言ったかー?」
「なんでもありませんー! ししょー!」
ジロリと睨むジューメに慌てて背を伸ばすと、ヴェントが不意に真剣な表情になった。どこかジューメに似てきたその瞳に、ユーは思わず笑みを零す。
「それでね、ユー。実は今日こうして集まったのは、偶然じゃないんだ」
「うん?」
「風を媒介して、きみ自身が安定してきたことをアンスから聞いたから、ボク達は戻ってきた。……ボク達はまだ、きみから話を聞いていない。あの日、サンヴァーとの戦いでなにが起きたのかを」
頬を赤らめながらも真面目な声音で言うヴェントに、ユーは乾く口を湿らせるために酒を含んだ。目を閉じ、深く息を吐き出す。
「きみがサンヴァーの腹にクロウを埋めて、あいつが黒いドロドロしたものを吐き出しながら破裂して……そのあとボク達は、土埃に視界を奪われた。壁の中でなにが起きているのか全く分からなくて、かと思えば急に壁が消えてほとんど無傷なきみが飛んできて、裏の世界に戻ってた」
「そしてあなたは……昏々と眠りつづけ。目を覚ました直後は、ひどくうなされていました。一体、なにがあったのです」
「まぁ、無理に聞き出そうとは思わねぇけどよ。お前が話せるタイミングで、全部話してくれればそれでいい」
口々に言う三人に、ユーは未だ指先程度しか動かせない左腕に触れ、視界がほぼ奪われている右目を髪の上から覆った。長く深呼吸をすると顔を上げ、小さく頷く。
「そうだね。うん。……今なら、話せるよ」




