15-1
「――じゃあ、行ってくるね」
「気を付けて」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
復興しつつあるリ・セントーレに立つ小さな家から、左腕を三角巾で吊り、顔の右半分を銀髪で覆い隠す青年が出て来た。彼は金髪の女性の体を一度軽く抱きしめると、彼女と同じ髪の色をした少年の頭に手を置く。
「ちゃんと、お母さんのお手伝いをしてね」
「はーい! お兄ちゃん、これ!」
「ありがとう」
少年に渡されたバッグを片手で器用に肩にかけ、翼を広げた。地面を蹴ろうとし、顔にかかる小さな陰に足を止める。
刹那、上空から急降下してきた青い風が、躊躇いの欠片もなく突っ込んで来た。彼は青年が倒れるのも構わずに力いっぱい抱きしめ、ワシワシと頭をなでまわし、陽の光のように明るい笑みを浮かべる。
「久しぶりー! 元気してた? 体の具合はどう? もうどれくらい会ってないよー! やっと帰って来たよ久しぶりぃ!」
「……あ、解った。ジューメの気持ちがすっごく解ったよ今、ヴェント……」
銀髪の青年――ユーは苦々しい笑みを浮かべると、ヴェントの手をやんわりと押し返した。遅れるように空に見えた赤い影に微笑みかけ、仰向けに倒れたまま右手を軽く振る。
「よぉ、元気そうじゃないか。自力で歩けるまでに回復したか」
「うん。去年あたりにね、まだ左腕と右目はキチンと利かないけど……良好だよ」
「悪いな、不肖の弟子が仕事の邪魔してんだろ」
「ちょっとししょー! それ失礼、すっごく失礼!」
頬を膨らませるヴェントに、ジューメは地上に降りてくると彼の脳天に拳をギリギリと押し付けた。彼は慌ててジューメの傍から離れて涙目になりながら頭を抱えており、ユーはクスクスと笑う。
ジューメに手を貸してもらいながら立ち上がると、彼からポンポンと頭をなでられた。
「ユー、仕事を終えたらアンスのところに来いよ」
「え? アンスのところ?」
「オレ達も久しぶりに、このあたりに帰って来たからな。色々と話もしたいし、お前たちの現状も知りたいし。ま、ちょいとした飲み会でも開こうぜ、あいつのところで」
と、ジューメは頭を抑えながら拗ねているヴェントの襟首をヒョイと掴み、空に向かった。返事を待たずに行ってしまう彼に頬を指の腹で掻くと女性に……ラポートに向き直る。
「ごめんね、配達が終わったらまっすぐに向かおうと思うけど、いい?」
「うん。ごゆっくり」
「ありがとう」
ユーは翼を開き、今度こそ地面を蹴って空に向かった。
配達を終えてアンスの家に到着すると、彼らはすでに夕食の支度を終えていた。ユーが空いている席に腰を掛けるとすぐに宴が始まる。
「それにしても、この四人で集まるのは本当に久しぶりだよね。あの戦いの後以来だろうから、五年ぶりくらい?」
「ブー。ユーは実質、魔界から戻ってきた後一年くらい、昏睡状態だったので四年ぶりです」
「ボク、そんなに寝てたっけ」
「そうですねぇ。医療日誌を見てみると、三百と七十日ほどですねぇ。えぇ、正直に言いますともう目を覚まさないものだと思いましたよ……」
「一年以上じゃねぇか。よく生き返ったよな、お前……」
呆れるジューメに苦い表情を浮かべ、コップに入っている酒を一気に飲み干した。喉が焼けていく感覚に眉を寄せながらも、それをごまかすように長く息を吐き出す。
「ライトニアさんが言うには、ユーさんに……その、血が流れていたために眠っていただけで済んでいたそうですよ。もし普通の竜人ならば、目を覚ますことはなかっただろう。と」
「まぁ、まだ魔界の力が抜けきってないからこんな状態だけどね」
左腕を軽く上げ、料理に手を伸ばした。この一年の間にある程度のことは右手だけで出来るようになってしまい、そんな自分に苦笑してしまう。
「ルーチェも元気そうだったね。今はどういう家族構成なの?」
「うーん。ルーチェからすると、ボクはお兄さんでラポートがお母さん。って感じみたいだよ、ボクとラポートで八つも歳が離れてるし、仕方がないかな。ところでジューメの方は、あの話はどうなってるの」
「あぁ……あれなぁ」
話を振られたジューメは額に手を置きながら、一息に杯を干した。




