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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第十四章 終わりの戦い
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14-3

 まずはコンダムが一足でサンヴァーに接近し、体を捻るとツタをしならせ、肩甲骨から見える腕に思い切り叩き付けた。それでも平然としながら宙を舞う手に視線を送り、復元させながら二本の手をコンダムの腹部に置く。その形は、掌底。

 避ける時間は愚か衝撃を殺す間も与えられなかったその攻撃に、内臓を直接鎚つちで殴られたような激痛が走った。コンダムは血が混じる咳をすると腹部を抱えてその場に膝をつき、低く唸る。


『愚かな大天使コンダムよ、お前は知っているだろう? どれほど抗おうとも、魔界の者には勝てないことを。その鍵さえ我が手に納められれば、私はお前をこれ以上傷つけまい、さぁ、その小僧を』

「黙れよ、クソ野郎」


 腹部を抱えながらも顔を上げ、吐き捨てるように言うと口角を吊り上げた。膝をつくコンダムの背後から飛び出すようにユーがクロウを振り上げ、サンヴァーの腹を狙う。

 サンヴァーは身を引き、クロウを避けると、膝を突き上げてユーの体を蹴り飛ばした。


「ウィユ!」


 ユーの胴体にツタを回し、二人はサンヴァーと距離を取った。顎を伝う血を拭うことも忘れ、咳き込むユーを地面に降ろすと表情をうかがう。


「大丈夫か」

「……なぁんだ、眼の場所。やっぱりそこなんだ? サーとおんなじ」

「……腹か」


 深く頷き、ユーは後ろを振り返った。アンス、ジューメ。そしてヴェントを見つめると、ふと瞳を和らげる。


「コンダム」

「どうした」

「ありがとう」


 突然どうしたのかと、コンダムはユーを見つめた。彼が三人を見る目はどこまでも暖かくて、前髪の下で目を細めてしまう。


「もし、もしさ。コンダムがすっごく強い人で、ポスダーなんかにも負けないで過ごしてたら、ボクは三人に会えなかったよ。きっと、ずっと村の中にいて、そのうちサーに魔界の住人にされてたかもしれない。ううん、されてたと思う」

「………」

「自分の命を賭しても、助けたいって、守りたいって思える存在に会えたこと。本当にありがとう」


 言うや否や頭に拳を食らって目の前に火花が散り、ユーは殴られた場所を擦りながらコンダムを見上げた。抗議の声をあげようとするもコンダムに思い切り睨まれ、口をつぐむ。


「ぬかせ、今から死ぬわけじゃあるまいし。お前は奴らと一緒に無事に国へ返す。それがお前の父親との約束だ」

「……ボクの、父さん?」

「局長殿に決まっているだろうが!」


 どこか戸惑った様子のサンヴァーを睨みながら鼻で笑い、コンダムは腕に力を込めた。ツタの太さが増していき、脈を打つ。


「お前の事は私が守ってやる。ただ奴に向かい、走れ」

「……頼りにしてるよ」


 口の端を軽く上げるとユーは翼を広げ、宙を走った。その両脇を自分の胴体と変わらないほどの太さになったツタが駆け抜け、クロウを持つ手に力を入れる。


『無駄なあがきを! ならば望み通り、貴様らを消した後にあそこの三匹も、苦しませたうえで我らが玩具としてくれよう!』

「弱点を知られた途端に吼えるか、ザコが!」


 サンヴァーがクロウをかざすとコンダムはツタを加速させ、その腕を絡め取った。忌々しそうにそのツタを引き千切り、クロウで切り落とすが、即座に切り口から生えるツタによって体の自由を奪われていく。


『愚かな……! 愚か、愚かよ! 所詮貴様らが使う力は眼の力、すなわち魔界の力。我が力ぞ! ならばなぜ、私を傷つけられると思うのか!』

「はっ! 確かに眼の力はてめぇの力だろうよ。だがな、呪力によりお前から切り離して取りこんでしまえば、もはやお前の力ではない……竜人としての力だ」


 嘲るコンダムに、サンヴァーは目を見開いていた。口の端を吊り上げて喉の奥で笑いながらツタに力を込めていくコンダムは、前髪の下で瞳を冷たく光らせる。


「お前の敗因は、一介の竜人だと……お前が恐れる龍と同じ呪力を使える私を見くびり、ウィユの心根の強さを侮ったことだ」


 ツタに絡まれもがくサンヴァーの目の前には、すでにユーが来ていた。彼は思い切り背を反らし、ギラつく目でサンヴァーを……サーを、見つめる。


「これで、終わりだよ」

『ちぃ……!』

 



 舌打ちをし、醜く顔を歪めるサンヴァーの腹にユーのクロウが埋まった。

 その瞬間、ユーは冷たい炎に身を焼かれるのを感じていた。クロウの切っ先を中心とした衝撃波に体は吹き飛び、ボールのように地面で跳ねる。その衝撃のせいか口からは血を吐き出し、身を焼かれた痛みも重なって立ち上がることが出来なかった。

 周囲に視線を走らせると自分と同じように衝撃波に飛ばされたのだろう、袖口から見えるツタは焼け、ピクリとも動くことのないコンダムが傍に倒れていた。彼に近づこうとするも指の先すら動かせずにいる自分に苦笑し、ゆっくりと息を吐き出す。


「……おぉおおお……!」


 届いた声に、体温が引いて行くのがわかった。

 まだ、自分たちを囲んでいる力は消えていない。


「我が主が……私の、神が……! おのれ!」


 地面が大きく、縦揺れを起こした。ユーは痛む全身に力を込め、無理やりに体を起こす。


「サー……!」


 腹を抱え、唇を戦慄かせ。「誰か」を探すように視線を彷徨わせながらサーが台座の上に膝をついていた。対して大きな怪我を負っているわけでもないのに立ち上がることすら出来ずにいる自身に苛立ちを覚えつつも、ユーは傍に落ちているクロウへ手を伸ばしていく。


「消える……魔界が、消えてしまう……!」 


 小さなサーの体からはまだ、魔界の力が溢れ出ていた。目視できるほど強いその力は彼の周りを気ままに蠢いているが、それがまとまり始め、数本の触手のような形になる。


「ならば……ならばウィユ!」


 その触手が自身に向かい、突き出された。クロウを握る手をどうにか振り上げそれを切るが、手ごたえのないそれに絡め取られてしまい、クロウも手を離れる。


「愛しく憎らしい我が息子よ! お前だけでも、連れて行く!」


 萌えるような氷が、凍えるような炎が。触手と共に自分を覆っていくのを感じていた。痛みに叫ぶ喉は焼かれ、逃げるための手足は凍り付き、翼も闇に縛り付けられている。

 ヴェント達がどうなっているのか、彼らは無事なのか。それを確認することも出来なかった。

 意識が朦朧もうろうとし、視界が黒く染まっていく。サーの勝ち誇ったような狂った笑い声が耳に残る。

 ――そして――


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