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なにが起こるのかと目を見張っていると、ドロドロとした球体がサーの体を覆っていった。それはサーの体を糧に姿を変え、立ち上がる。
朽ち果てていた翼は蘇り、それが背に三対生えていた。目は赤黒く光、鋭く尖った耳が黒い短髪からチラリと見えている。肌には相変わらず粟が立ち、それは手を開くと指の先全てにクロウの刃を浮かべていた。
『最期のひと時を与えてやろう。存分に友との別れを、そしてこれからの絶望を思うがいい』
「そんな気、更々ねぇけどな」
ジューメが大剣を肩に担ぐように持ち、ユーとコンダムの傍に並んだ。彼の後ろにはヴェントと、銃を構えているアンスがいる。
サンヴァーは幾分顔色がよくなっているジューメを見つめ、二つが混じる声で笑った。
『あぁ……その鍵さえ壊してしまえば、恐れるモノはない。と、言いたいところだが。お前も邪魔なんだよ、炎の龍の子、ソーリスの子よ!』
サンヴァーの言葉の意味を理解する暇もなく、ジューメは襟首を掴まれると一切の躊躇なく放り投げられていた。背には何かを巻き込みながら地面に倒れ込み、慌てて立ち上がると背後を確認する。
「おい! 大丈夫か!」
「いっててて、なにごと……! ジューメ!」
「なっ、なんですかこれは!」
すぐに立ち直ったアンスが数歩進むと、見えない壁に衝突した。それに手を着き戸惑っているとヴェントが目を丸くして、ジューメも見えないそれに駆け寄る。
「な……! なんでだよ!」
壁の中には、ユーとコンダムが残っていた。その中で自身を、ヴェントとアンスを巻き込んでも投げられるだけの背丈があるのは?
「ふっざけんなよ! なんでだよ、最後の最後で指をくわえて見てろってか! っざけんな!」
サンヴァーがジューメをねめつけ、不気味に口の端を上げた瞬間だった。コンダムがジューメの襟首を掴み、心の準備をする時間など与えないように放り投げるのを横目で見てしまったのは。それは見事に、彼の後ろに立っていたヴェントとアンスを巻き込んで飛ばされていく。
「ジューメだけならまだしも……。三人をまとめて放り投げたようなものだよね、あれ」
「四人にしてやってもよかったが。どう考えてもお前を巻き込んでは投げられなかった」
何かが自分たちを覆っていくのがわかり、ユーはクロウを再度握り直した。肩越しに振り返ってみるとジューメが壁に額と手をつけ、殴り、叫んでいるようだ。
「なに? おいしいところ、ぜーんぶ持っていくつもり?」
「それでもよかったのかもしれんな?」
喉の奥で笑い、コンダムは両手をダラリと下げた。彼から感じた自分がよく知る力に、ユーは思わず見上げてしまう。
「眼の力……使えるの?」
「私とて、オスキュリートの血を持つ者だ。……それを受け入れられれば、使えないことはないさ」
袖から植物のツタのようなものが見え始め、眉を寄せてしまった。それをごまかすように肩をすくめると指の腹で頬を掻く。
「なんだか不思議だなぁ。きみと共闘することになるなんて」
「奇遇だな、私もそう思っていたところだ」
ギシリ、ギシリとツタ同士がこすれ合う音が耳に届いて来る。いくつもの棘がまだらについているそれは両方の袖から伸びていて、その度にコンダムの腕の筋肉が泣いていた。ユーはサンヴァーを見上げてため息をつく。
「ところでどうするのさ。ジューメは……ううん、ヴェントもアンスもすっごく怒ってるよ。あとで怒られるのボクだよ? それになに、ジューメがソーリスさんの子供って」
「……てっきり知っていて、ともにいるのだと思っていたが……」
「きみはどうして知ってるのさ」
「呪力でわかる。どう考えてもあいつから感じるそれは竜人のものではなかったからな。あとでの叱責も代わりに受けておいてくれ、大人を護るよりも子供を守る方が、労力が少なくてよかっただけだ」
「子供扱いしたなー!」
頬を膨らませてにらみ上げるも、コンダムは何食わぬ顔で戦いの支度を続けていた。ばさりと翼を広げてみても平然としている。
「ボクもう十八ですけど。きみが大天使になったのと、同じ年齢ですけどー!」
そう言って拗ねているユーに、コンダムは声をあげて楽しそうに笑った。そんな場合ではないはずなのに、ユーも頬を膨らませながらもそれに釣られるよう肩を揺らす。
「何を言うか! 私とお前では、親と子ほどの歳の差があるというのに! 私から見ればお前たちはみな子供だよ」
「ふふ、それもそうかもしれないね。……そろそろ準備は出来たかな?」
「あぁ、待たせてすまない。どうにもまだ、慣れ切れていなくてな」
左袖から伸びたツタは地面へと垂れ、右腕から伸びるツタの先は蠢いていた。コンダムは両腕をゆっくりと上げ、どこか彼らしい、口の端を吊り上げた笑みを浮かべる。
『ほう。もういいのか?』
「あぁ、これが最後の戦いだ」
「に、なってくれるといいけどねぇ」
げんなりと言うユーに、再びそろって笑い声をあげ。二人はサンヴァーを睨みつけた。




