13-3
「おやおや、きみは愚かな大天使。世界の裏切り者、コンダム君ではないか」
嘲るサーの声に、コンダムは静かに彼を睨んだ。どれだけユーに背をひっかかれようと、頬を打たれようと、顔色一つ変えずに光を注ぎ続ける。
「何をしに来たんだい?」
「決まってんだろ。てめぇを……てめぇらをぶっ飛ばしに来たんだよ」
舌打ち交じりに放たれた言葉は、荒々しい口調だった。サーはそれに口を歪めて笑い、サンヴァーも体を揺らす。
「一介の竜人ごときが、魔界の長であられるサンヴァー様をぶっ飛ばすって? フハッ、止めてくれよ小僧。……腹が痛くなってくるじゃあないか」
(それに、その子を助けてもいいのか? 大天使コンダムよ)
ユーの動きは少しずつ、弱々しいものになっていった。そしてコンダムの顔からは血の気が引いて行き、呼吸は薄くなっていく。
「きみがここにいるのは」
(お前がここにいるのは)
その子のせいなんだぞ?
サンヴァーとサーの声が、綺麗に重なった。ヴェントは目を丸くしながら、口を薄く開いて笑うコンダムを見つめる。
「ハッ。それがどうした、薄々気づいてたさ。そしてウィユから話を聞いて、確信していた。……私が今ここにいられるのは、この子のおかげだとな」
余裕たっぷりに言われたそれに、サーはピクリと眉を動かした。コンダムは膝をつき、額に脂汗を浮かべながらも、二人の魔物を見上げ続ける。
「ポスダーによる戒めから解かれた私は……ウィユを救うため、呪力を全て渡した。それが、魔界の住人の子であるウィユを救うために、命を落としたことが。魔界にかかわりを持って、死んだということなのだろう? そんなこと、とっくに気づいていたさ」
笑みを含む語尾に、サーの表情が不服そうに歪んでいく。それを見たコンダムは逆に、口の端を歪めて笑った。
「ウィユのおかげで私は、ここにいられるんだ。……もう二度と、正気のうちに会うことはできないだろうと思っていた、大切な友に会えた。偽りの世界だとしても、護りたかったものを、護ることが出来た。そして何よりも! 腸が煮える、という言葉で表すにも物足りないほど! 憎ったらしくて仕方がない貴様と、こうして対峙することが出来た!」
顔は白を通り過ぎて土気色になり、翼からは羽根がハラハラと抜け落ちていく。
そんな、今にも倒れてしまいそうな彼から、肌がしびれるほどの怒号が出てくるとは思いもしなかった。ユーの姿はついに元に戻り、背が静かに上下している。
「……ウィユには、感謝の言葉もない。……貴様らの戯言、など。耳を傾ける、価値もないわ」
コンダムの体から力が抜け、ガクリと頭が垂れたのを見てヴェントは駆け寄ろうとした。だがそれは一瞬のことで、コンダムは即座に立ち上がると、ぐったりとしているユーを抱きしめたまま後ずさる。
「ジューメ、自身の中にある異物を焼き払え」
大剣を握る手に、力が入ったように見えた。ユーがわずかに顔を浮かせ、低く唸り始めると抱きかかえ直し、ジューメに視線を映して目を細める。
「お前ならば出来るだろう? 闇如きに呑まれるな、龍の子よ」
「……は、簡単に、言ってくれる……」
悪態をつきながらも、ジューメの口元には笑みが浮かび始めていた。アンスの体をやんわりと押して自分から離れさせ、全身を震わせながらも大剣を支えに立ち上がる。
「なんだ……。焼いてしまえば、よかったんだな!」
次の瞬間、ジューメの体が炎に包まれた。ヴェントは慌ててアンスの体を抱き寄せるように距離を取り、コンダムは緩く口の端を上げる。
その炎が消えた時、顔色を悪くしながらも、ジューメは確かに立ち上がっていた。同時にユーの瞼が震え、薄く目を開く。頭を軽く振ると辺りを見回し、コンダムに抱えられていることに目を丸くした。
「コンダム! ぼ、ボクは」
「目を覚ましたか。早々にすまないが、相手方はそう長くは待ってくれなさそうだぞ」
頷き、コンダムの腕を降りるとクロウを構えた。それから申し訳なさそうにヴェントに顔を向け、目を伏せる。
「ごめん、ヴェント。ボク……」
「待って。あとにしよう」
(よかろう。これで役者はそろったか?)
サンヴァーが、ズルリと動いた。五人はそれに身構え、サーは膝をついて頭を下げたまま動かない。
(さぁ、我が可愛い僕よ。貴様の体を捧げるのだ)
「サンヴァー様の、お望みのままに」




