13-1
(これでいいのか)
コンダムは小さくなっていく四人の背を見ながら、ローブの袖に隠すようにして拳を握りしめていた。
(私は今、なんと言った。頼んだ、だと? 私はあの子達に任せるつもりなのか)
一文字に閉じた口の中は、奥歯を砕かんほどに噛みしめている。それでもコンダムはその場を動くことが出来ず、ただ点になっていく四人の姿を見ているだけだった。
突如襲った背の激痛に、コンダムは激しく咳き込むと地面に突っ伏した。しばらくゲホゲホと咽ていたが、錆びた機械のような動きで振り返ると、ミールがニヤニヤと笑っているのが見える。
「お前……少しは、加減というものを……」
「は、なに言ってんスか。あんただからしないのに」
「おいコラ。上下関係を確認しておくか?」
「はっはっは、だーれがあんたの事、世話して来たと思ってんだ。昔から、尽きない興味好奇心、腕白小僧につきあってさ」
手を伸ばすと、コンダムはむすっと口を尖らせながらもその手を取った。立ち上がると叩かれた背を擦り、眉を寄せる。
「だけどさぁ、あんたはいつも、誰かのために動いてたよなぁ。世界のために文献を覚えて、ラポート様のために……魔界の奴に体を奪われながらも、突き進んで。この世界ではみんなを護るため、戦い続けて」
ミールの表情が不意に真剣になり、コンダムはますます眉間のしわを深くして言った。真剣な表情なのに瞳は柔らかくて、彼の言葉に耳を傾ける。
「たった一度くらい、あなたが思うことをなされてくださいよ。行きたいんでしょう? 彼らと共に、戦いに」
「バカな。ウィユ達が、サンヴァーの元へ行った。そのことにより魔界の住人が、ここに攻め込んで来ないとも限らない。それなのに、離れるわけには……」
言いかけるコンダムの肩口を、ミールは叩いた。相変わらず加減をされないそれに唸り声を上げながら、ケラケラと笑う彼を恨めしげに見る。
「オレ達ルシアルの兵が、なんのためにあると思ってんだか。……たった一言、あんたが命じれば。オレ達は命を捨てて戦えるんだ」
「何をバカなことを! 言えるわけがないだろう、そんな、そんなことを!」
「それくらいの覚悟はあるということですって。……あなたが何もかもを背負う必要はないんです、あなたはこの世界に来て、一体何度死にました。何度喰われて、バラバラにされましたか。……これはオレからの最後の頼みです、自分の心の思うままに動いてください」
それでもコンダムは、頷かなかった。ミールはため息をつくと翼を広げ、頭一つ分背丈が違う彼に視線を合わせる。
そしてそのまま、優しく抱きしめたのだ。その行動にコンダムは目を丸くし、揺らした。
「なら。私たちの代わりに、親玉をぶん殴ってきてくださいよ。私たちなんかが言ってもタカが知れてますから」
「……ミール……」
「それに。あなたは我々が死に、ここで囚われているのは自身のせいだとお思いでしょうが。何よりも悪いのは私たちです。たった十八のあなたに長として生きる事を求め、心の内を知ろうともしなかった。ほら! 最期くらいは、自分の思うままに動いてくださいよ」
そう言って微笑むミールの背に、コンダムはゆっくりと腕を回した。徐々に込められていく力に、ミールも同じように力を入れていく。
「すまない、ミール。……わがままを、聞いてくれるか」
「当然でしょうよ、あなたの事を思っていないなら、とーっくの昔にそばを離れてますって。……ここで、お別れだよ」
「本当にすまない。……頼んだぞ」
「御意に」
確かな返事に、コンダムは純白の翼を広げた。迷いなく、ウィユの故郷へと空を翔けていく。




