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サーの言葉に、ユーは足を踏み出すと、腕を振り上げてヴェントに向かって行った。咄嗟に、鞘から剣を抜かないままにその手を止めると、彼は即座に脇を通り過ぎていく。
その先には、アンスと、動けないジューメがいた。
ヴェントはユーに向けて腕を突出し、竜巻を起こした。その風は二人とユーの間に止まり、壁となる。
「ヴェントさん!」
「ユー、きみの相手はボクだよ。……アンスはジューメをお願いね」
ヴェントは長剣を緩く持ち、掌で小さな竜巻を遊ばせて笑った。ジューメは歯を食いしばり、青ざめ、脂汗を流しながら顔を上げる。
「ヴェント、無茶言うな……お前じゃ、ユーに……!」
「あははっ。ボクがユーなんかに、傷つけられるわけないだろ。いいからジューメはそこにいて」
不自然に生えた角に皮膚を引っ張られているのだろう、ユーは引きつった目でヴェントを睨み、引きつった声で微かに吼えた。再び腕を振り上げ、向かってくる。
気づけばユーは背後にいた。ヴェントは慌てて背を反らせ、振り下ろされる爪から逃げる。振り返ってみれば、着地した刹那に再び突進してくるユーの目尻に、小さな光があった。
「大丈夫だよ、ボクじゃあユーを傷つけられないし、ユーはボクを傷つけない。だから安心して、ボクにだけ向かっておいで」
突き出される腕を掻い潜り、深く息を吐き出すと目を閉じた。足音を殺し、自身の呼吸音さえも押し殺してしまうと、周囲で動く大気に気を集中させる。
「ヴェントさん……!」
「ちくしょう……」
サンヴァーからわずかに手の甲を切られただけなのに。その直後から体内を抉られているような、食われていくような感覚が続いていた。その痛みに奥歯が打ちなり、息をする動きにさえ走る激痛に呼吸を薄くしながらも、ジューメは大剣を握る手に力を込める。
「ヴェント……」
「……ジューメさん。ヴェントさんを信じましょう、彼は今、ユーさんの攻撃を避けきっています」
ユーが動けば、必然として風が生まれる。彼が呼吸をすれば、自身の周りの大気が動く。
ヴェントはそれらを全て感じ取り、読み、ユーの姿を一切見ないで風に身を任せて動いていた。
「……ボクの名前は、ヴェント=ラミティ。風の竜人だよ、きみは?」
万が一直撃すれば致命傷となりえるだろうユーの攻撃を紙一重でかわしながら、ヴェントは微笑みかけた。長剣はもはや手にあるだけの長物と化し、ユーに対して攻撃も防御も行っていない。
「ウィユって、変わった名前だね」
「今日から、一人は当たり前じゃなくなるね。ボクがいるから」
「手を出して、これで、ボク達は、友達だ」
ヴェントがユーに声を掛けると、彼は震えた声で吼え、それでも振り上げる手を止める事はなかった。それでも少しだけ、動きは鈍くなっているようで、膝が笑い息も上がっているが、声を掛ける事を止めない。
「ユー……暴れていいよ。苦しいでしょ、サンヴァーなんかに、サーなんかに使われて。ボクは、大丈夫だから……」
「よく、耐えきった!」
低く、全身に響くような声が鼓膜を震わせた。誰の声なのかも判断がつかないうちに首根っこを掴まれ、アンスとジューメの傍に放り投げられる。
震える体を無理やりに動かし顔を上げると、金色の男性が暴れるユーを力づくに抑え付け、その腕に閉じ込めていた。ユーの爪が彼の背を傷つけ、白いローブを赤く染めているが、そんなこともきにしないよう掌をユーに中てている。光が灯り、それはユーを包み込んでいた。
「コ、コンダム……!」




