12-3
飛び込んだ先に広がっているのは、どこまでも深い闇だった。前後に、上下に、左右。その全てが黒に塗りつぶされており、自分たちが今、どこを向いているのかさえわからない。
「ヴェント、ジューメ、アンス。いる?」
「ちゃんといるよ、ここ」
「離れるなよ、別れたら合流できないぞ」
「はい」
どうにか手探りで、ユーはヴェントの事を掴み、ジューメはアンスの手を取った。ユーは目を細め、周囲に気を張る。
「……眼と同じ力が、魔界の大きな力が一つある。こっちだ」
足を進めていくにつれて目が闇に慣れて来たらしく、互いの顔が見えるようになってきた。不意にユーが足を止めると、三人も同様に立ち止まる。
ユーの視界の先には、ドロドロとした球体が台座のようなものの上で浮遊していた。ただの球体であるそれが笑ったように見え、四人は静かに武器を構える。
〈ほう、ここまで来たか。憎き闇の龍ダリエスの力を持つ者、そして龍の子よ〉
「お前が、サンヴァー」
ユーの問いに、球体がユラユラと揺れた。頷いているつもりなのだろうか、頬に伝う冷たい汗を手の甲で拭いながらも口角を緩く上げる。
「なに、一人なわけ? 魔界の住人をドーッとけしかけて来るかと思ってたんだけど?」
〈クックッ、その必要はない。目の前にいるのでな〉
球体が崩れ、触手のようなものが瞬時に伸びた。突然のことに反応がわずかに遅れてしまい、頬から一筋の血が流れる。
咄嗟に周囲を見てみるとジューメも二の腕を少しばかり切られているようだが、ヴェントとアンスは無事なようだ。
「目の前にいる、だって? どこにもいないじゃん。ボク達に消されすぎて、もう手下もいないんじゃっ」
バクンと、心臓が跳ねた。ユーは地面に膝をつき、クロウを落とすと自身を抱きしめるように腕を回す。妙に大きく聞こえる脈の音に顔を歪め、体を支えてくれているヴェントを戸惑うように見上げた。
「ユー、大丈夫!」
「ジューメさん!」
アンスの声に、ヴェントが振り返った。彼は右手に大剣を握りしめたまま倒れ、青ざめながら左手で胸元をきつく握りしめている。アンスはそんな彼に駆け寄り、上半身を起こすようにして体を支えていた。酷く息苦しそうなジューメと、全身を緊張させているユーに、ヴェントは剣を握り直しながらサンヴァーを睨みつける。
「二人になにをしたんだ!」
「っ……離れて……!」
不意に突き飛ばされ、ヴェントはしりもちをついた。ユーが地面に手を突き、頭を押しつけ、背中を丸めるようにして体を緊張させている。
ヴェントはその目で、彼の姿が変わっていくのを見た。
こめかみの辺りからは左右非対称な角が生え、手の爪は伸び、一部が甲殻と化す。彼の翼からは漆黒の羽根が部分的に生え始め、始めから持っている翼の他に小さな翼が一対、腰のあたりに出ている。
うめくような声をあげ、体を起こすと、血走った目でこちらを睨んだ。獲物を狙う獣のような目が、確かにヴェントの姿を映している。
「ユー……!」
〈フ、フ、フ。小僧は闇の龍の力を持つ者であり、光の竜人の子であり。我が忠実な下僕の子でもある。……魔界の住人の血を、持つ者よ〉
「ほんの些細なきっかけで、我々の仲間になりえるのさ。最も……この手段無しで、私のものに、したかったのだがね」
サンヴァーの他に聞こえた、ガサガサの、集中しなければなんと言っているのかわからないような声。
だがヴェントはそれが誰のものなのかを、瞬時に聞き分けていた。
「サー……!」
露出している肌は潰れた水疱のようなもので覆われ、皮膚が垂れ下がり、竜人の翼はそのほとんどが溶け落ちていた。彼はサンヴァーのわずか後ろに立ち、静かに膝をつく。醜い顔で、優しく微笑んでいた。
「さぁ、ウィユ。……きみのお友達と、お別れしようか」




