12-2
「少し考えると簡単だった。封印の鍵、それはそのまま、封印としてとらえられる」
ユーが向かう先には、小さな村があった。その村に降り立つと迷いなく歩き、一軒の家に入る。視界の隅に入った隣の家の壁には見覚えのない印が書かれていたが、ユーは立ち止まることなく足を進めた。
「封印が一番働くところ、それは封印する対象の傍。……だからボク達は、竜の国のこの村で、生活していた」
「……ここは、ユーの村なの?」
「そうだよ。ここはボクが生まれた村で、この家はボクが住んでた家」
と、ユーは奥にある部屋の中に入って行った。ヴェントはその部屋を見回し、ジューメは周囲を警戒する。そしてアンスは、ユーの言葉に耳を傾け、一言も逃さないようにとペンを走らせていた。
「そして、生きている間でもっと無防備になり、もっとも無意識になる時間」
そこにあるベッドを押しのけ、床板を剥がし始めた。ヴェントも隣に並んでそれを手伝い、アンスが剥がされた床板を部屋の外まで運ぶとジューメがそれを灰にする。
「眠る時。そこに、扉はあったんだ。こんなにも近くにあったのに、ボクは何も知らなかった」
ユーの手の甲に描かれるものと同じ、しかしそれを縦に分断するように傷が入っている『眼』がこちらを睨んでいた。ヴェントはその視線からわずかに顔を背け、ユーは静かに、睨み返す。
「竜の国からこの眼を通っても、普通に、ここにたどり着いただけだった。きっと魔界の長、サンヴァーは魔界のもっと深いところにいるんだと思う。……最後に聞くよ、本当に来るの?」
「今更、なにを言ってるのさ」
「ここまで来て、尻尾巻いて逃げられるかよ」
「フフ、それ、ジューメさんが言うと想像が容易いですね」
アンスが笑うと、ジューメが尻尾で彼の背をバシバシと叩いた。その様子がどことなく可愛くて、拗ねているように見えて、ユーとヴェントも笑い出す。
「だれか、いるのかい……」
警戒の色を含んだ色に、ユーは息を飲むと体を硬直させた。ヴェント達もその声に目を丸くし、部屋の入り口を振り返る。
「きょ、くちょう……さん?」
「……ユー?」
開きっぱなしにされているドアの向こうに、局長さんが立っていた。ユーは彼を見つめたまま動けずにおり、ヴェントはそっと、剣の柄に手を乗せる。
「局長さん? 本当に?」
「ユー……ユーなのかい? どうしてここに!」
局長さんは青ざめながらユーに駆け寄ると、頬に手を伸ばした。ペタペタと確かめるように触れ、つつき、ボロボロと涙を流し始める。
「あぁ、あぁ……! ここには死んだものが来るのではなかったのか、なぜ、なぜお前がここに!」
「きょ、局長さん。大丈夫だよ、ボクは死んだから、ここにいるんじゃないよ」
声を震わせ、嗚咽を上げ始めた局長さんを落ち着かせるよう、ユーはその体を抱きしめた。局長さんはその肩口に顔をうずめ、背に回す腕に力を込める。
「本当だね? ユー、お前は死んだんじゃないね?」
「うん。ボクは、魔界を消しに来たんだ。……局長さんこそ、どうしてここに……」
「……耐えられなかったから。みんながお前たちを、英雄だというのが……ここから救い出してくれるというのが、耐えられなかった」
と、局長さんは顔を上げ、四人を見渡した。ヴェント達が何かを図るように見ているのが判ったのだろう、苦笑しながらも手の甲で強く涙をぬぐう。
「英雄なものか。そんな言葉に縛られて、背負わされて。そんなのは私が知るユーじゃない、きみ達じゃない。私はもう、そんな言葉を誰からも聞きたくなかったんだ。そうしたら光の竜人の……白い翼をした男性が、この場所を教えてくれた。もう誰もいない村を、まじないを掛けてやるから、化け物も襲ってこないように。と」
先ほどあった印が何か、判った気がした。恐らくコンダムがまじないを掛け、魔界の住人から局長さんを守ってくれていたのだろう。じわりと、胸が温かくなるのを感じた。
「だから、ユー。危ないことはしないでおくれ。私たちはどうでもいいんだよ、他の者がどれほど理解しているかはわからないけど……死んでいるんだから」
「そうはいかないよ。ボク達は絶対に、サンヴァーを倒す」
「じゃあ、じゃあ約束しておくれ。私はもう……ユーの帰りを待ってあげられないけど。絶対に生きて、無事に帰るんだよ。危なくなったら逃げていいから、だから」
ユーは目元を腕で擦り、頷いた。それを見て局長さんも安心したのだろう、柔らかく微笑むと再度、ユーの事を抱きしめる。
「……いままでありがとう、ユー」
「ボクが言わないといけないセリフだよ、局長さん。いままで、ありがとうございました、行ってきます」
「行ってらっしゃい。……ヴェント君も、ジューメ君も、アンス君も。絶対に、無事に帰るんだよ」
と、局長さんは少し離れた。ユーは深く息を吸い込むと局長さんに背を向け、三人に顔を向ける。
「……行こう!」
飛び込んだユーを先頭に、三人はそこに覗く『眼』の中へと入って行った。




