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龍たちも、竜人も、ルシアルの兵隊たちも。闇夜に動くモノが何もなくなったのを確認し、一つの影が呼吸すらも潜めて体を起こした。足音もなく歩いて行き、森の中に溶けていく。
ぐんぐん離れていく影は不意に立ち止まると空を見上げ、綺麗な丸い形をしている月に目を細めた。
「……ごめんね、みんな」
「何を謝るの」
聞こえた、怒りを含む声に、背を震わせると勢いよく振り返った。ここに来るまで何の音も聞こえなかったし、誰の気配もなかったはずだ。
それなのにどうして、彼「ら」がここにいる?
「可笑しいと思ったんだ、突然手袋を渡してきて。これはきみのお母さんが作ってくれた大切なものなんだろう。それにありがとうなんて言ったりさ、きみはボク達を連れて行く気は、全くなかったわけだ」
「申し訳ありませんが、我々も置いて行かれるつもりはこれっぽっちもございませんので」
「いくらなんでも水臭いぞ、ユー」
「……ヴェント、アンス……ジューメ? どうして」
目を丸くしているとヴェントが大股で近づいてきた、その直後、体が地面に倒れており、遅れて頬が熱くなるのが判る。顔を上げてみるとジューメが慌てたようにヴェントの腕を掴んでおり、彼は目を吊り上げて涙を流していた。
「どういうつもりさ! なんで、一人で行こうとしたの。ボク達が足手まといだっていうの!」
「ち、違う! そんなつもりじゃっ」
「確かにそうさ! ジューメは違うかもしれないけど、ボクもアンスもどう頑張ったって、きみの隣では剣を振れないよ。何を転んでもきみと並んで戦うことは出来ないさ! だけど、だからってどうして今更仲間外しなの!」
ボロボロと涙をこぼしているヴェントに、口内にじんわりと広がっていく鉄の味に眉をひそめながらもユーは体を起こした。ジューメの手を振りほどき、腕で強く目元を擦って貪るように呼吸をしながらも言葉を続けようと口を開く。
「行くさ、行く、たとえきみが置いて行こうとしたって、無理やり着いて行ってやる。ここで置いて行かれるくらいならきみと行って死ぬほうがマシだ!」
「そんなこと言わないで! ボクはきみ達に、死んで欲しくない! 今から何が起きるのか、わかんないんだよ? 命を落とす可能性の方が高いんだよ! それなのにどうして」
「ボク達だってきみに死んで欲しくないんだよ! わからないの? ボクは言ったはずだ……ずっとずっと前、きみと知り合って、一緒に光の竜人から逃げた時に言ったはずだよ! ボクは……きみが大切な友達だから、傷ついてほしくない。……それを放って置けだなんて、なににも勝る拷問だ……!」
子供の様に泣きじゃくっているヴェントを優しく抱きしめ、ユーは静かに首を振った。クイと服の裾を引かれそちらを見てみると、アンスが大層不機嫌そうにこちらを見上げている。
「ユーさん、あなたが言った通り、これは恐らく最後の戦いになるでしょう。それに置いて行かれるのならば、私は今の状況のままでいい」
「まぁ、そういうことだ。こっちの事は戦える奴らに任せておけばいい」
「……きみ達はバカだよ。本当に、バカだ……!」
「きみに、言われたくないよぉ……!」
二人して涙を流し、嗚咽を上げ。ふと顔を上げて見合わせると、苦々しく笑っていた。ジューメやアンスもそれに釣られるように笑っており、ユーもヴェントもどこか照れたように口を緩める。
そして、ヴェントから返してもらった手袋をつけながら、まっすぐに顔を上げた。
「実はさ、もう一つ、理由があるんだよ。……一人で行こうとしたのには」
「なに?」
「ボクが魔界に行ったときに見たものを、みんなには見せたくなかったんだ。……だけど、話しておくね。眼のさきで見たものを」




