11-4
その言葉に、一同はユーに視線を向けた。彼はルーチェを撫でながら目を伏せ、バッグの中から一冊の分厚い本を取り出す。
「この中に書いてあった。魔界の扉の場所、どうしてそこに扉があるのか。全部考察だったんだろうけど、確かにそこにあった」
「ユー、その本は?」
ジューメの問いに答えることなく、ユーはその本をラポートに差し出した。彼女はそれを受け取ろうとせず、唇を噛みしめ、凝視している。
「……ラポート。これはきみが持っていた方がいいよ、これはコンダムの。きみのお兄さんの日記帳だよ」
ボロボロになり、気をつけなければ容易く破れてしまいそうなその本を、ユーはラポートに向け続けた。一向に受け取ろうとしない彼女の手を優しく取ると日記帳を乗せ、強引に渡してしまう。
「この中に書いてあったんだ。ごめんね、きみ達の断りなくコンダムの書斎に入って。だけど知識を得るには必要なことだったんだ」
「……お兄ちゃん……」
体を震わせ、嗚咽を堪えるように俯くラポートの事を、ユーは優しく包み込んだ。頭を、背を撫で、目を閉じる。
「魔界へは、明日の朝行く。……人は連れて行かない、英雄だけで行くよ」
「どうして! 危ないのに、兵隊さん達もいるよ。集落の外に住んでて戦える人も、たくさんいるのに! どうして、ユー達だけで行こうとするの!」
「みんなを守ってほしいんだ。……サデルも、いい?」
「おう、足一本喰われたくらいじゃあ、戦力外通知は受け取れねぇな!」
「だからお前は、少しは怪我人だという自覚を持ってくれ!」
拳を突き上げるサデルの事を肘で小突き、呆れたように言うジューメを見て、ユーは知らない間に微笑んでいた。鼻を鳴らしながら泣いているラポートの顔を覗き込み、柔らかい笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。きっとボク達は、いい方向に進める」
「帰ってきて……絶対に帰ってきて。お兄ちゃんみたいにならないで!」
ラポートが言うと、ルーチェも震え、ユーに体を押し付けるようにして泣き始めた。彼はそれに戸惑いながらも、二人の体を抱きしめる。
「もう、もう一人になりたくないよぉ! ユー!」
「……信じて、としか言えないけど。一人にはしないから、大丈夫だよ」
と、ラポートとルーチェの体を、サデルにそっと任せた。彼はユーが言わんとしていることがなんとなくわかったのだろう、片足で器用に立ち上がって翼を広げるとこの場を離れていく。
「ユー、明日の朝、行くんだよね」
「……うん。だからボク達も、もう休もう」
うなずき、ユーは自身の手の甲を見た。左手の手袋をそっと外し、それをヴェントに渡す。
今まで直接見たことがなかったユーの手の甲には、彼が展開してきた眼と全く同じものが描かれていた。突然それを渡されたヴェントは目を丸くし、ユーを見つめる。
「どうしたのさ?」
「……きみに持っていてほしいんだ。最後の戦いになるだろうし、全力で向かいたいから。……ありがとう、みんな」
最後の言葉は、ほとんど空気となって消えていた。三人がその言葉の意味を訊ねる前にユーは立ち上がり、翼を開く。
「もう戻ろう」
地面を蹴り上げ、空に消える彼の背を。三人は慌てて追った。




