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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第十一章 せまる時
42/59

11-4

 その言葉に、一同はユーに視線を向けた。彼はルーチェを撫でながら目を伏せ、バッグの中から一冊の分厚い本を取り出す。


「この中に書いてあった。魔界の扉の場所、どうしてそこに扉があるのか。全部考察だったんだろうけど、確かにそこにあった」

「ユー、その本は?」


 ジューメの問いに答えることなく、ユーはその本をラポートに差し出した。彼女はそれを受け取ろうとせず、唇を噛みしめ、凝視している。


「……ラポート。これはきみが持っていた方がいいよ、これはコンダムの。きみのお兄さんの日記帳だよ」


 ボロボロになり、気をつけなければ容易く破れてしまいそうなその本を、ユーはラポートに向け続けた。一向に受け取ろうとしない彼女の手を優しく取ると日記帳を乗せ、強引に渡してしまう。


「この中に書いてあったんだ。ごめんね、きみ達の断りなくコンダムの書斎に入って。だけど知識を得るには必要なことだったんだ」

「……お兄ちゃん……」


 体を震わせ、嗚咽を堪えるように俯くラポートの事を、ユーは優しく包み込んだ。頭を、背を撫で、目を閉じる。


「魔界へは、明日の朝行く。……人は連れて行かない、英雄だけで行くよ」

「どうして! 危ないのに、兵隊さん達もいるよ。集落の外に住んでて戦える人も、たくさんいるのに! どうして、ユー達だけで行こうとするの!」

「みんなを守ってほしいんだ。……サデルも、いい?」

「おう、足一本喰われたくらいじゃあ、戦力外通知は受け取れねぇな!」

「だからお前は、少しは怪我人だという自覚を持ってくれ!」


 拳を突き上げるサデルの事を肘で小突き、呆れたように言うジューメを見て、ユーは知らない間に微笑んでいた。鼻を鳴らしながら泣いているラポートの顔を覗き込み、柔らかい笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ。きっとボク達は、いい方向に進める」

「帰ってきて……絶対に帰ってきて。お兄ちゃんみたいにならないで!」


 ラポートが言うと、ルーチェも震え、ユーに体を押し付けるようにして泣き始めた。彼はそれに戸惑いながらも、二人の体を抱きしめる。


「もう、もう一人になりたくないよぉ! ユー!」

「……信じて、としか言えないけど。一人にはしないから、大丈夫だよ」


 と、ラポートとルーチェの体を、サデルにそっと任せた。彼はユーが言わんとしていることがなんとなくわかったのだろう、片足で器用に立ち上がって翼を広げるとこの場を離れていく。


「ユー、明日の朝、行くんだよね」

「……うん。だからボク達も、もう休もう」


 うなずき、ユーは自身の手の甲を見た。左手の手袋をそっと外し、それをヴェントに渡す。

 今まで直接見たことがなかったユーの手の甲には、彼が展開してきた眼と全く同じものが描かれていた。突然それを渡されたヴェントは目を丸くし、ユーを見つめる。


「どうしたのさ?」

「……きみに持っていてほしいんだ。最後の戦いになるだろうし、全力で向かいたいから。……ありがとう、みんな」


 最後の言葉は、ほとんど空気となって消えていた。三人がその言葉の意味を訊ねる前にユーは立ち上がり、翼を開く。


「もう戻ろう」


 地面を蹴り上げ、空に消える彼の背を。三人は慌てて追った。

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