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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第十章 始まりの地
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10-4


『みんなは彼女を奪った闇の竜人を、サー=オスキュリートを憎んでいる、恨んでいる。奴に、怒りを抱いている。オレだって憎い、母を奪われ、族長を連れ去られ、どうして憎まないでいられるんだ』


 震える文字は、怒りか悲しみか。目を伏せ、ユーは自分の手の甲にそっと触れる。


『だが、同時に恐ろしい。オレには奴と同じ血が流れている、みんなが憎んでいるオスキュリートの血が流れている。それを知られたらどうなる? あの声が言う通り、オレはここから追い出されるのか。あの声はレガー様が集落を抜けようとしていることを言い当てた、それに、オレの先祖にオスキュリートがいる事も言い当てた。信用できるのかもしれない、まだラポートは八歳なんだ。大天使の責なんて負えるわけがない。あの声が怨めしい、奴さえいなければオレは知ることはなかったのだから』


 ぶつけられない怒りを、恐怖を、憎しみを。彼はこの日記に吐き出していたのだろうか。

 筆圧も強く、ガタガタの文字で書かれたノートに、ユーの肩は震える。


『知られてはいけない、オレはまだ、大天使の座を降ろされるわけにはいかない。たとえ、この手を汚すことになったとしても、あの声のとおりにしなければいけないんだと、しても』


 サーはどこまでを計算し、どこまでを計画通りに進めていたのだろう。一呼吸、渦巻く感情を整えると、ページをめくった。前のページまでの文字とは幾分変わり、落ち着いているようで、それになぜか背を震わせる。


『今朝から急に、あの声が消えた。でも、いい。ようやくわけのわからない奴から解放される。オレはレガー様の事を、本当の母親のように愛していた。光の竜人を治める者として慕っていた、歴史を継承する者として尊敬していた。だがもう、貴女を信じることが出来ない自分がいる。それが悲しい。

 なぜ行ってしまったのです、闇の竜人の元へ。なぜオレ達よりも、サーを選んだのです。まだ十八のオレに、どうしろというのですか。まだ青二才なオレに、一族を率いろというのですか、ラポートを育てろと』


 今の自分と同じ年齢で、彼は光の竜人の長となったのか。その残酷さに、ユーは自分の母親ながら、薄情な族長だと思ってしまう。


『不安がっても仕方がない。このことは、ミールにも言えない。やるしかないんだ』


「……どうしてさ。なんで、誰にも言えなかったの? コンダム」


 思わず漏れた一人ごとに、魔界で会った彼の笑みが浮かんだ。


(だから、一人で背負い込むなって……)


『オレはどうなってしまったんだ』


 次をめくり、目を疑った。あまりにもグチャグチャに書かれた文字は先ほどまでの彼と同じ字には見えず、ポツポツと水でぬれた後のような染みが紙面に残っている。それをそっと指でなぞり、きつく眉を寄せた。


『気づけば違う場所にいる、気づけば今までしていたことと違うことをしている。記憶が一部抜けることはもう、茶飯事だ。あげくの果てには文献を一部焼いていた、バカじゃないのかオレは』

 

 この頃からすでに、ポスダーに蝕まれていたのだろう。それならば彼は、どれだけ長い間苦しんだのだろうか。


『何とか修正は出来たが、次にいつこんなことが起こるかわからない。この部屋を封じてしまおう、オレなんかでは到底開けないよう、怨めしいが、闇の竜人ほどの力がなければ開けないほどに、強く、強く。オレが使える呪力を精一杯使って。負けない、オレは負けたくない。正体もわからない何かなんかには。たとえオレ自身が死ぬことになったとしても、伝承は、そしてラポートは絶対に守る』


 日記はそこで切れており、ユーは自身がこの部屋の天井に空けた穴を見上げた。


「ラポートが、文献はないって言っていたのはこれのせいか。……あれ?」


 日記帳の裏表紙から、折りたたまれた紙が落ちてきた。それを拾い上げ、破かないように開いて行く。


『封印の扉 

      封印が最も効くところ→扉があるところ?

ダリエス、鍵、オスキュリート→共に集落の端 

リ・セントーレ→各集落の龍、見張り容易。でも開いた場合の被害は大きい

オスキュリートの里→この里の対極、端。見やすい、開いた場合の被害も比較的マシ?』


 乱雑に書かれた文字は、二種類あった。うち一つはどうやらコンダムのものらしく、眉を寄せる。


「オスキュリートの里。……ボクが、生まれた場所」


 ユーはその紙片を手に、書斎を出た。塔の外に出てみると周囲はすでに夜の帳を迎えており、ため息をつく。


「さて。ここから往復するのに、時間は足りるかなぁ」


 口の端を上げながらも、ユーの姿は闇夜に溶けていった。




 ヴェントとジューメは集めたものを袋に担ぎ、大天使の間に戻ってきた。目を点にし、互いに顔を合わせる。


「なぁ、床にこんな穴、あったか?」

「いやぁ……ちょっと、記憶にないねぇ」


 その穴の中に入ってみると本棚に囲まれた部屋があり、その中央の机ではユーが突っ伏すようにして眠っていた。彼の周りには分厚い本が山積みにされており、戸惑いながらもそっと体を揺らす。背が跳ね、顔が上がった。


「あ……戻ってきてたんだ、お疲れ様。じゃああとは、ラポートが開いてくれるのを待とう」

「ユー、クマが出来てるよ」

「もしかして、これをずっと読んでいたのか? てか、この部屋はなんだ」 

「その……。コンダムの、書斎らしいんだ。これは全部文献だよ、歴史と、魔界との戦いと、家系図と」


 目を擦りながらもユーが立ちあがった時、体を包み込まれる感覚があった。三人は荷物を持ちながら近寄り、普段と光の雰囲気が違うことに気づく。


「もしかして、向こうで何かあった?」

「イヤな予感しかねぇな……」

「すぐにでも、戦える準備をしておこう」


 うなずき、三人は光に包まれた。

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