10-3
ユーはもう一度翼を広げ、書斎を隅々まで飛びまわった。一冊一冊、丁寧に本の背表紙を見ていくが、どの本棚も五九四一だけが抜けていた。 他の場所にしまわれてないか、部屋の真ん中にポツンと置かれている机のまわりにも置かれていないが探してみるが、やはり見つからない。
どれほど飛んでいたのだろう、疲労を覚え、床に向かった。たった十日間体を動かせなかっただけなのに、ひどく体力がなくなったような気がして一人苦笑する。
だが。
一体何をどうしたのだろう、着地でバランスを崩してしまった。挙句に先ほどまで自分が読み、床に積み上げていた本に躓いてしまい、気づけば目前に本棚が迫っている。
「うっわ!」
腕を伸ばす暇もなく、そのまま本棚に突っ込んでしまった。その衝撃のせいだろう本の雨を全身に浴びてしまい、本に埋もれたまま突っ伏す。
「いっててて……。片付けるの、大変そうだなぁ……」
起き上がるのに手を突き、触れた本を持ち上げていた。落ちてきた本に紛れていたのだろうそれは、他の本とは材質が違う。
表紙はボロボロになっており、不自然な分厚さがあるその本はよく見てみると、何冊もの本を無理やりに紐で縛ったものだった。
「なんだ、これ」
『きょうは れがあちまに まつ白なほんお もらった。 がんばつて につさを かく』
今にも破れてしまいそうな表紙を慎重にめくってみると、幼い字が見えた。どうやら日記帳のようで、ユーは床に散らばる本を申し訳程度に積み重ねると腰をおろす。周りを見てみれば同じような本が何冊か落ちてきていたらしい、何年分の日記帳なのだろうか。
『きょうは たくさん ごお本をよんだ。 いつはいいっぱい、むかしのことが かいてある。ぜんぶ おぼえてるの、れがーさまは すごい』
『れがーさまが おともだちを つれてきてくれた。みーるっていうんだつて、たくさんあそべたらいいな』
恐らく、コンダムの日記なのだろう。所々文字を間違えており、彼にもこんな時期があったのかと思わず微笑んでしまう。それからページを読み進め、元々の目的も忘れて見嵌っていった。
『レガーさまが女の子をつれてきた。ボクとおんなじ、白いつばさ。ラポートだって。いもうとができた!』
『ラポートはかわいい、大切ないもうと。ボクはお兄さんだから、ラポートを守る。だから、つよくなる』
不意に視界が歪み、ユーは目を丸くすると目頭を強く抑えた。深く息を吐き出し、ページを開く速さを上げる。
進むにつれて文字が丁寧になり、文章も長くなっていった。
時にはラポートと遊んだこと、時には訓練について、時には、ミールに説教されてふて腐れてしまったこと。こんなことをしている場合ではないのに、彼の日記帳から目を離せなかった。
何冊目の日記に手を付けていたのか、今までの文字とは違う、走り書きのような文章が出て来た。
『オレの部屋に訳の分からない奴がいる、姿は見えない、声だけしか聞こえない。なんなんだ、あの不気味で耳障りな奴は。どうやら部屋に居なければ聞こえないらしい、そして奴は、自分の声はオレにしか聞こえないと言っている』
ユーは、ページをめくる手を痙攣させた。
『オレにしか聞こえないのならば、他の者に相談したところで解決策が出てくるのか、わからない。そうでなくとも、他の者を巻き込むわけにはいかない、今は塔の中に空き部屋はないから部屋を動くわけにもいかないだろう。上等だ、奴の正体を掴んでやる』
「ポスダー……」
ユーはコンダムの文字を指で撫でながら、続きを読んでいった。文字は日を追うごとに焦りが見え始め、丁寧だった文字が、よく見なければなんと書いてあるのかわからないほどに繋げられている。
そして、日記のほぼ終わりの頃。その字はますます、震えていった。
『レガー様が行ってしまった……!』




