10-1
「ユー、調子はどう?」
「休みすぎて疲れちゃったよ!」
アンスやコンに半ば見張られるようにして十日間休息を取らされたユーは、苦笑しながらも腕を回した。そんな彼の答えにヴェントも笑い、脇腹を小突く。
「ユーが無茶ばっかりするからだよ」
「ごめんごめん。……明日からはボクも、表の世界に行くよ。あいつらの様子はどう?」
「どうも、なりを潜めているみたいでな。……かえって不気味だ」
声を静めるジューメに、目を伏せた。それでも立ち上がると返してもらったクロウを腰に下げ、棒を掌で転がすとポケットに入れる。
「あのさ……明日、表の世界に行ったら、ボクはルシアルで確認したいことがあるんだ。だから、その……」
どこか申し訳なさそうに言うユーに、ヴェントは目を細めながらため息を吐いた。それでも口の端を緩め、ジューメを見上げる。
「また、一人でやろうとするんだね。でも今回はちゃんと事前に話してくれたから、許そうよ。ジューメ?」
「お前はもう少し、オレ達を頼れないものかね」
「ごめん。だけど、今こんなことになっているのはボクの父親のせいなんだ。……だからこそ始末は、ボクがつけたい。あれの子供で、オスキュリートの一族の生き残りで……。魔界の封印を担ってきたボクが、つけるべきだと思うんだ。わがままだって言うのは、ちゃんとわかってるつもりだけどね」
「……そのわがままに振り回されてるオレ達の事も、考えろってーの」
しばらく眉を寄せたまま腕を組んでいたジューメが、頭を掻いた。アンスも隣で大きく頷いており、バツが悪そうな表情を浮かべる。
「その、ごめん……」
諦めたような、呆れたような。そんなため息を漏らしたジューメに、ユーは思わず深く頭を下げてしまうのだった。
翌日、表の世界に着くと、ユーはジューメとヴェントを見送って一人大天使の間に残った。
「……ボクとコンダムが初めて会って、戦った場所。……この下に、コンダムの書斎が」
どこかに隠し通路でもあるのかと、ユーは部屋の中を隅々まで探した。イスもどうにか動かしてみるが、通路のようなものは見当たらず、首をかしげる。
「どうしようかな……」
呟きながらもポケットに手を突っ込んで棒を取り出すと、それを伸ばした。先端ギリギリを持ち、呼吸を整えると、一切の加減なく床に叩き付ける。部屋いっぱいに破裂音が響いて幾重にも反響しているが、床には傷一つ付いていなかった。
「まぁ、こんなので壊れていたら……戦えて、ねぇよなぁ?」
口を薄く開き、眼を展開するとマトゥエを手にしていた。天井まで飛びあがるとそれを振りかざし、深呼吸を一つ、ゆっくりと。
「入り口を教えてもらってねぇし、これくらい許してもらうぜ」
マトゥエの面を、何の遠慮もなく床に打ち付けた。その衝撃でわずかなヒビが走ったのを見逃さず、ユーはそのまま力任せに、マトゥエを押し込む。
大天使の間の床が抜け、ユーは眼を閉じると穴の中にゆっくりと降りて行った。部屋に散乱する床、この部屋の天井を足で寄せながらも顔を上げる。
――そこに見えたものに、思わず息を飲んだ。




