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赤い血だまりが、つい先ほどまでコンダムと話をしていた場所に広がっていた。その中には肉片が浮かび、日の光を受けて金色に輝く毛髪が散らばっている。遠くに見える手首には、最期まで戦っていた証だろう、長剣が握り締められていた。
ユーはそれらから目を離すことが出来ず、地面に膝をつくと深くうつむいた。
喉が焼ける気持ちが悪い感覚を覚え、せり上がって来るものを地面に吐き出すと、ユーは嗚咽を上げた。何度も何度も、胃の中身が無くなろうとも喉を焼きながら胃液をぶちまけ、息を吸おうとして入り込んでくる血の臭いに更に吐き気を催していく。
視界の端に何かが動き、ユーは無理やりに嘔吐を押さえ、顔を上げた。
――血だまりに浮いている肉片が、動いているのだ。それは徐々に近づいて行き、融合を始め、血だまりの中にコンダムの姿を形成する。倒れたまままぶたを震わせ薄く開き、両手を緩く開き、感覚を確かめる様きつく握り締めていた。
耳に小さく届いてきた嗚咽に視線を動かし、ユーを瞳に映したのだろう、彼はビクリと肩を震わせた。弱々しい笑みを浮かべながら立ち上がり、ユーの傍まで来る。
「まったく……。戻ってきてしまったのか」
「なに、なにが起きているの……コンダム……」
「これが、我々がここで生かされている理由さ」
隣に座りながら背を擦ってやり、長剣を自分の脇に置くと何度か深呼吸をした。空を見上げ、日の光に目を細める。
「私たちは奴らの玩具だ。何度壊されても食われても、バラバラにされても。魔界に来たと同時に掛けられている呪いにより、こうして体が再生する」
身も凍るような話に、言葉が出なかった。そんなユーを見て微笑むと包み込むように体を抱きしめ、自身の上着の袖を引っ張る。
「大丈夫だよ、ウィユ。他の者はまだ、この苦しみは知らないはずだ。これは、私とミールだけの秘密、報告も上がっていないし、狂った者もいない。だから、大丈夫」
汚れるのも気にせず、ドロドロになっているユーの頬を袖で拭った。彼の表情に、ポスダーに寄生されていた頃の冷たさは微塵もない。
「それに死ねないおかげで、いくらでも呪力を使える。いくらでも、人々を守ることが出来る。……今度こそ私は、守りたいものを守ってみせる」
「コンダム……!」
「ウィユ、お前はもう、あちらの世界に戻るんだ」
と、コンダムはユーを立たせた。だがユーの足取りはおぼつか無く、体を支える。
「ルシアルの元に行き、私とお前が初めて会い……戦った場所へ行け。その下に私の書斎がある、恐らくラポートもその部屋の事は覚えていないだろう。……無事ならばいいが、そこには竜の国の歴史の、全てがある」
肩を震わせ、唇をきつく噛み、背を痙攣させるようにして抱きついて来るユーの背を擦ってやりながらコンダムは続けた。彼を落ち着かせるよう、トン、トン、と優しく叩く。
「そこには扉の場所も、封印の方法も記されているだろう。私がここで説明するよりも見てもらった方が早いだろうし、お前は長い間、ここに居るべきではない」
「だけど、ボク」
「こんな言葉でお前たちを縛りたくはない。だが今は、お前たちを頼るほかないのだ」
困ったように微笑みながら、コンダムはユーに視線を合わせた。




