8-3
表の世界でユーを探し、六日が経った。ジューメは嫌がるヴェントを引きずるようにして大天使の間に連れ戻し、予想通り現れた裏の世界につながる光の中へ放り込む。自身もそれに飛び込むと、長くため息をついた。
「ヴェ、ヴェントさん、ジューメさん!」
乾いた血を全身にこびりつかせ、顔色を悪くしている二人に、アンスは半ば悲鳴のような声を上げながら駆け寄った。地面の上に散らかるのも構わないよう治療道具を広げ、即座に二人の傷をみていく。
「……ユーさんは……」
「見つからねぇ。ラポート、表の世界に行く前にユーが他に言っていたことはないか」
ジューメの視線にラポートはビクリと肩を震わせ、目元にじんわりと涙を溜めた。怯える彼女を見てサデルは苦笑し、ジューメを小突く。
「たくよー、昔から変わんねぇな。焦ってる時のその目、怖いぞー」
「好きでこんな目になってんじゃねえよ」
「今はそんなこと、どうでもいいでしょ! ねぇ、何か聞いてないの!」
ヴェントもまた、治療を受けるのももどかしいように焦っていた。ラポートはそれにまた怯えて杖を握り締めながらも、二人を見つめる。
「……表の世界で、十日後に。戻って、来ると」
「表の世界で十日って、こっちで言ったら三十日だろ! ユーは何を考えてるのさ!」
「ヴェント、ヴェント落ち着け。ユーは無事だ」
先に治療を終えていたジューメは立ちあがり、大剣を背負った。ヴェントの頭を優しく叩き、目を伏せる。
「こう言っちゃあなんだが、表の世界にいる魔界の住人はオレ達で対処できるほどの数だ。もし、あいつに何かあったのなら、オレ達になす術はない」
思わず目を見開き、反論しようと口が痙攣したが、止めた。
確かにジューメが言うとおり、ユーに何かがあった場合。竜の国は魔界の住人に奪われ、全てが闇に染まってしまうだろう。
「ラポート、続けて悪いが、表へ連れて行け」
「……はい」
「ちょい待ち、オレも行くわ」
サデルもヒョイと大剣を抱え、ジューメに並んだ。それから、長剣を手に立ち上がっているヴェントへ視線を向け、肩をすくめる。
「休めと言っても、聞かないだろうしな。それにオレも、あの坊やは心配だ」
「悪いな、わんぱくばっかで」
「なあに、大丈夫。遠い昔のお前ほどじゃないから!」
赤面し、言葉を詰まらせているジューメを見てサデルは豪快に笑い。三人はラポートに再び、表の世界へ連れて行ってもらうのだった。
それから、更に二日が経った。
「この狭い国の、どこにいるのかねぇ」
「それがわかりゃあ、苦労しねぇよ! お前たちの風でも、見つけられないんだろ!」
「ユーの声よりも、魔物の声の方が大きいんだ。どうしても……」
三人は大天使の間に向かいながら、ユーを探していた。
もしかしたら、ユーがここで体を休めることがあるかもしれない。そう思い、日が昇る頃にはここへ来ることにしていたのだ。
「それに、コンの声も」
不意にヴェントが何かに反応し、動きを止めた。サデルもまた、同様に鋭く辺りを見回している。そんな二人にジューメは警戒し、大剣へと手を伸ばしていた。
「何だ、また魔物か」
「……龍の声……コンだ!」
弾丸のように飛び始めたヴェントの後を、一瞬遅れて二人も追いかけはじめた。彼は大天使の間にまっすぐ向かっているようで、扉を突き破るようにして開くと目を丸くする。
どうにか追いついたジューメとサデルも、部屋にいたものの姿に体を震わせた。
「コン、ユー!」
「お前ら……!」
そこには、腹部や鱗が剥がれ落ち露出している肌から血を流している黒龍が、服をボロ雑巾のようにし、四肢も頭部にも、どす黒く染まっている布を乱雑に巻いているユーを必死に舐めていたのだ。コン自身もか細い声をあげ、ピクリとも動かないユーに翼を震わせる。
三人は慌てて駆け寄り、ヴェントがユーを、ジューメがコンを抱えあげた。サデルは周囲を見回し、何者の気配もないことを確かめる。
「ジューメ、あの軟膏は!」
「も、持ち歩いてはいる。だけどこんな傷じゃあ」
「あれば万能薬じゃねぇよ、ヴェント。あくまで応急処置用だ、これだけの怪我ならちゃんと治療をしないとダメだな」
その時、何かに引かれる感覚を覚え、三人は近寄った。それからすぐに光が溢れ、ユーとコンを抱きかかえる二人の手に力がこめられる。




