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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第八章 一縷(いちる)の
27/59

8-2

 ラポートから、ユーが一人で表の世界に行ったと聞いた瞬間。ヴェントは噛みつかんばかりに彼女へ詰め寄った、それをジューメが咄嗟に止め、目を伏せる。


「ヴェント、解るよな。ラポートを責めてもどうにもならないってことは」

「……わかる、解るけど……! それでも、どうして一人で行かせちゃったの! ボクも行くよ、だから!」

「ヴェント!」


 その怒鳴り声に、ヴェントはビクリと肩を震わせた。うつむき、背を震わせている彼の頭を帽子越しになで、両肩に手を置くと顔を覗き込む。


「落ち着け。どうせ明日、表に行くんだ。その時に探して説教をしてやろうぜ」

「それに……コンの姿もないようだ。どうやらウィユについて、表の世界に行っているな」


 辺りを見回していたライトニアの言葉に、ヴェントは少しだけホッとしたようだった。アンスも珍しく、眉間一杯に眉を寄せながら首を振っている。


「無理やりにでも彼を引っ張って来なければなりませんね、まったく、よくわからないところで妙に頑固なんですから……」

「どうせ、自分のせいで―なんてわけのわからないことを考えたんだろ! ったく……」


 吐き捨てるように言ったジューメの顔を、ヴェントとアンスは同時に見上げ。

 再度、長い長いため息をついてしまうのだった。




「ユー、大丈夫?」

「……大丈夫だよ、コン」


 二人は小さな洞穴に入り、傷の治療をしていた。コンは不慣れな手つきで、裂かれているユーの肩口に布きれを巻いて行く。ユーはそんな彼の頭をなで、緩く目を閉じた。


「ちょっと、無茶したけどね」

「なにが、ちょっとなの! 一人でこっちに来るなんて、ボクが来てなかったら、どうしてたの!」

「その時はその時、どうにかしてたさ」


 フッと、ユーの体から力が抜け、コンは慌てて彼の腹に乗っかるよう抱きついた。その衝撃に低い声を上げながら肺の空気を吐き出してしまい、咳き込みながらも泣き出しそうな彼の体をさすってやる。


「だ、大丈夫だってば。少し休むだけだよ」

「本当? 本当に?」

「本当に。たったこれだけの傷でどうこうなってたら……ボクはもう、四年前には死んでるよ。それにあいつらは、ボクを殺す気はきっとないから」


 思わずこぼれた本音に、苦い笑みを浮かべた。そんなユーを見て一応安心したのだろう、コンが隣に寄り添うようにして目を閉じる。コトンと小さな頭が肩に乗っかり、ポンポンと背を叩いた。


「ありがとう、コン。少しだけ、おやすみ」


 決して、警戒は解かないように。深い眠りについてしまわないように気を張りながらも、ユーも瞼を閉じるのだった。





 

 ――翌朝、ようやく太陽が顔を出しきってしまったころ。

大天使の間に閃光が走り、ジューメ、ヴェント、ルシアルの兵二人の姿が現れた。


「セレン、ラウル。お前たちは一緒に行動してくれ、オレとヴェントは別に動く。……ヴェント、お前も一人で、大丈夫だな」


 ジューメが出した指示に、ヴェントは背を震わせた。まっすぐに自身を見つめる黄色い瞳に息を飲み、ゆっくりと、確かにうなずく。

 それを見たジューメは口の端を上げ、大剣を手にした。


「何か、一人で対処できないことがあったら風を使え。行ってやる」

「そうならないよう、頑張るよ」


 ヴェントも長剣を持ちながら微笑み、ジューメと一度拳をぶつけ、四人はその場を離れた。




 二日経ち、四人は一度ルシアルへと戻ってきた。手にはそれぞれ、食料やネロの茎、水の他に、裏の世界で減ってきているものが入った袋を持っている。

 ジューメはヴェントが両手で持っている袋を片手でヒョイと奪い取り、顔を覗き込むようにしてわずかに腰を曲げた。ヴェントは首をかしげ、見上げる。


「大丈夫だったか」

「うん。……ユーは?」

「……見つからなかったよ」


 セレンとラウルも首を横に振り、ヴェントは奥歯を噛みしめながら深くうつむいた。ジューメも長くため息をつき、どこか苛立たしそうに尻尾を床へと叩き付ける。

 不意に、足元から光に包まれていくのが判った。ヴェントは慌てて翼を広げるとその場を離れ、顔を歪める。


「ボクはまだ戻らないよ、絶対にユーを見つける!」

「そう言うと思ったよ、二人はオレ達の荷物も持って、先に戻ってくれ」


 ジューメはヴェントの隣に並びながら、二人のルシアルの兵に自信が持っている二つの袋を放り投げた。彼らが裏の世界に行くのを見送り、ヴェントの事を盗み見る。

 彼の体には擦り傷や切り傷が多数あり、目の下にはクマも出来ていた。上着はズタズタに裂けていたが、それは自身で引き裂いて包帯代わりにしたのだろう。腕には乱雑に服の切れ端が巻かれていた。


「よく、一人で頑張ったな」

「へへ、ボクだってみんなと一緒に旅をして、戦って来たんだよ。いつまでも守られてない、今度はボクが、守る側に行くんだ」


 力強く言われた言葉に、ジューメは柔らかい笑みを浮かべた。ポンポンと頭を叩き、軽く背を押す。


「さぁ、この二日はろくに休んでないんだろ。とりあえずオレの拠点に行って、休んで。それからまた、捜しに行くぞ」


 ジューメの言葉に、あくびをかみ殺しながらうなずくと。先に地面を蹴った彼の背を追うように、翼を広げるのだった。

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