8-2
ラポートから、ユーが一人で表の世界に行ったと聞いた瞬間。ヴェントは噛みつかんばかりに彼女へ詰め寄った、それをジューメが咄嗟に止め、目を伏せる。
「ヴェント、解るよな。ラポートを責めてもどうにもならないってことは」
「……わかる、解るけど……! それでも、どうして一人で行かせちゃったの! ボクも行くよ、だから!」
「ヴェント!」
その怒鳴り声に、ヴェントはビクリと肩を震わせた。うつむき、背を震わせている彼の頭を帽子越しになで、両肩に手を置くと顔を覗き込む。
「落ち着け。どうせ明日、表に行くんだ。その時に探して説教をしてやろうぜ」
「それに……コンの姿もないようだ。どうやらウィユについて、表の世界に行っているな」
辺りを見回していたライトニアの言葉に、ヴェントは少しだけホッとしたようだった。アンスも珍しく、眉間一杯に眉を寄せながら首を振っている。
「無理やりにでも彼を引っ張って来なければなりませんね、まったく、よくわからないところで妙に頑固なんですから……」
「どうせ、自分のせいで―なんてわけのわからないことを考えたんだろ! ったく……」
吐き捨てるように言ったジューメの顔を、ヴェントとアンスは同時に見上げ。
再度、長い長いため息をついてしまうのだった。
「ユー、大丈夫?」
「……大丈夫だよ、コン」
二人は小さな洞穴に入り、傷の治療をしていた。コンは不慣れな手つきで、裂かれているユーの肩口に布きれを巻いて行く。ユーはそんな彼の頭をなで、緩く目を閉じた。
「ちょっと、無茶したけどね」
「なにが、ちょっとなの! 一人でこっちに来るなんて、ボクが来てなかったら、どうしてたの!」
「その時はその時、どうにかしてたさ」
フッと、ユーの体から力が抜け、コンは慌てて彼の腹に乗っかるよう抱きついた。その衝撃に低い声を上げながら肺の空気を吐き出してしまい、咳き込みながらも泣き出しそうな彼の体をさすってやる。
「だ、大丈夫だってば。少し休むだけだよ」
「本当? 本当に?」
「本当に。たったこれだけの傷でどうこうなってたら……ボクはもう、四年前には死んでるよ。それにあいつらは、ボクを殺す気はきっとないから」
思わずこぼれた本音に、苦い笑みを浮かべた。そんなユーを見て一応安心したのだろう、コンが隣に寄り添うようにして目を閉じる。コトンと小さな頭が肩に乗っかり、ポンポンと背を叩いた。
「ありがとう、コン。少しだけ、おやすみ」
決して、警戒は解かないように。深い眠りについてしまわないように気を張りながらも、ユーも瞼を閉じるのだった。
――翌朝、ようやく太陽が顔を出しきってしまったころ。
大天使の間に閃光が走り、ジューメ、ヴェント、ルシアルの兵二人の姿が現れた。
「セレン、ラウル。お前たちは一緒に行動してくれ、オレとヴェントは別に動く。……ヴェント、お前も一人で、大丈夫だな」
ジューメが出した指示に、ヴェントは背を震わせた。まっすぐに自身を見つめる黄色い瞳に息を飲み、ゆっくりと、確かにうなずく。
それを見たジューメは口の端を上げ、大剣を手にした。
「何か、一人で対処できないことがあったら風を使え。行ってやる」
「そうならないよう、頑張るよ」
ヴェントも長剣を持ちながら微笑み、ジューメと一度拳をぶつけ、四人はその場を離れた。
二日経ち、四人は一度ルシアルへと戻ってきた。手にはそれぞれ、食料やネロの茎、水の他に、裏の世界で減ってきているものが入った袋を持っている。
ジューメはヴェントが両手で持っている袋を片手でヒョイと奪い取り、顔を覗き込むようにしてわずかに腰を曲げた。ヴェントは首をかしげ、見上げる。
「大丈夫だったか」
「うん。……ユーは?」
「……見つからなかったよ」
セレンとラウルも首を横に振り、ヴェントは奥歯を噛みしめながら深くうつむいた。ジューメも長くため息をつき、どこか苛立たしそうに尻尾を床へと叩き付ける。
不意に、足元から光に包まれていくのが判った。ヴェントは慌てて翼を広げるとその場を離れ、顔を歪める。
「ボクはまだ戻らないよ、絶対にユーを見つける!」
「そう言うと思ったよ、二人はオレ達の荷物も持って、先に戻ってくれ」
ジューメはヴェントの隣に並びながら、二人のルシアルの兵に自信が持っている二つの袋を放り投げた。彼らが裏の世界に行くのを見送り、ヴェントの事を盗み見る。
彼の体には擦り傷や切り傷が多数あり、目の下にはクマも出来ていた。上着はズタズタに裂けていたが、それは自身で引き裂いて包帯代わりにしたのだろう。腕には乱雑に服の切れ端が巻かれていた。
「よく、一人で頑張ったな」
「へへ、ボクだってみんなと一緒に旅をして、戦って来たんだよ。いつまでも守られてない、今度はボクが、守る側に行くんだ」
力強く言われた言葉に、ジューメは柔らかい笑みを浮かべた。ポンポンと頭を叩き、軽く背を押す。
「さぁ、この二日はろくに休んでないんだろ。とりあえずオレの拠点に行って、休んで。それからまた、捜しに行くぞ」
ジューメの言葉に、あくびをかみ殺しながらうなずくと。先に地面を蹴った彼の背を追うように、翼を広げるのだった。




