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――だが、竜人たちに襲い掛かろうとする突風を今度は別の風が押し包んでしまい、ヴェントはギチリと風を起こした者を睨んだ。
「同胞ヴェントよ、落ち着かないか。どうにもお前の風は幼くも強力なようだからな、その者が止められなかったのも無理はあるまい」
それはブリストだった。彼はヴェントの風を押しとどめながらも怒りを込めて竜人たちを見つめ、ソーリスは今にもかみ殺さんばかりに牙をむいている。
「いくら我らが同胞と言え、彼に対するその無礼は許さんぞ!」
誰も何も言えないでいる間に、赤龍が木々をも揺らす咆哮を上げた。ブリストも口角をわななかせ、低く唸りを上げる。
「あの者がどれほど過酷な運命を背負わされているか貴様らは知らんのだろう、この者たちが何と戦っているのか、碌々(ろくろく)知らんのだろう! よくもそのようなことが言える!」
「今となってはたった一人の、眼の継承者。あの幼く小さな体で、魔界の扉を封じているのだ。魔界の住人が今のところこちらに来られないのは、そのためだぞ」
竜人たちを殺しかねない勢いで吼える二頭をなだめるよう、サドリアは翼を広げながらも静かに呟いた。マリアナも同じよう、どこか憐みを含む目で竜人たちを見ている。
「無知というのは恐ろしいものだ、最も苦しんでいる者をこうして、なんの躊躇いもなく傷つけてしまう」
サドリアとマリアナの静かで優しい声と、ブリストが風を押さえ続けていたせいか、ヴェントが起こす風は徐々に小さくなっていった。怯えるよう自分を見ている竜人たちにますます目を怒らせるが、サデルがそんな彼の壁になるよう、腕ですっぽりと包み込む。
「ソーリス、ブリスト。お前たちの怒りも解るが、少しは落ち着かないか」
ライトニアはみんなを見つめながらも、ため息を漏らすと頭を抱えるよううなだれた。首を振り、寂しげに目を細くする。
「彼らの無知を責めるのは間違いだ、ダリエスと私が、魔界の封印の事を、我らが同胞に口外しないよう伝えたのだから」
「そうだ、それが未だ、納得できん! ダリエスは一体何を考えて!」
「魔界の存在を知ればその呪力を利用しようとする者が出て来るかもしれない、封印の者を、オスキュリートの者を傷つけて封印を解こうとするものが現れるかもしれない。彼はそう言っていた」
「結局のところ、こうして封印は解かれてしまったわけだがな」
鼻で笑うようブリストが言うと、ライトニアは疲れた表情を浮かべた。それから、ジューメ、アンス、ヴェントの三人へ視線を向ける。
「……落ち着いただろうか」
サデルがそっと、腕を解いた。ヴェントは嗚咽を上げながら背を震わせ、アンスもジューメの腕で顔を隠すようにして涙を止めようと体を緊張させている。
「すまない、私たちも……きみ達に甘えていたところがあったのかもしれないな」
ジューメは二人の頭をポンポンとあやすように叩きながら、ゆるりと首を振る。
それから竜人たちを見た瞳は、やはり龍を思わせるようなものだった。
「お前たちが不安なのも怯えているのも、何かはっきりとしたものを責めて安心したいというのも解る。だがな、ユーを責めるのだけは何があっても許さない。責めるのならば魔界の住人であり、憎むべきなのはあいつらだろう。なぜユーやこいつらを責めるんだ」
「よくぞ言った、我が子よ!」
ジューメの頭をつつくようにソーリスが口を近づけ、思わず体を緊張させた彼の頭をべろりと舐めた。龍の体がどうなっているのかはわからないが、とりあえず唾液まみれになるようなことはなく、それでもグシャグシャになってしまった髪を恨めしく見上げて肩を落とす。ケタケタと笑っているサデルの事もジロリと睨み、ため息をついた。
「とにかく。ユーが戻ってきたらこれからどうするかを話すぞ、奴のことも話してもらわねぇとな」
草を踏み歩く音に、ジューメは振り返った。そこにはラポートが一人で立っており、ルシアルの兵、フォルサが駆け寄る。
「大天使様、どちらにお出かけになられていたのです」
「……ウィユを、追って……」
「では、今、ユーさんはどこに?」
アンスが目を擦りながらも彼女を見上げると、居心地悪そうに視線をそらした。それでも、場に流れている空気に耐えられなくなったのだろう。体を震わせると目を上げる。
「彼は、調べたいことがあるからと……表の世界へ行ってしまいました。たった、一人で」
ラポートの言葉からわずかに遅れて。
ヴェント、ジューメ、アンスの叫び声が響き渡るのだった。




