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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第七章 賭け
23/59

7-2

 会話は聞こえず、向こうに何かあった時にはすぐに戻ることが出来るような場所で、ユーは地面に降りた。一度深呼吸をすると長らく開いていなかった眼を展開する。


「何なんだてめぇ、オレに何か用があんのか、この間から」

「ククッ、この世界に来てからだから……表の世界で言うならば十日ぶりか? 我が息子よ」

反吐へどが出る、そう呼ぶな」


 眼から、サーがズルリと姿を現した。ユーは奥歯を噛みしめ、体が震えるのを堪えながらも彼のことを睨みつける。


「どういうことだ、せいぜい希望を持てって? 扉の場所を探してみろだと? ……何を考えている、何を知っている」

「私はサンヴァー様のしもべだぞ、知らないことはないさ。……扉の場所を教えてやってもいいのだぞ、ウィユ?」

「いるか。貴様からは何を得ようとも思わない、それに素直に教えてくれるとも思えないしな。二度と話しかけてくるな、耳障りだ」


 唸り、ユーは眼を小さくした。サーは眼と直結しているのだろうか、僅かに苦悶の表情を浮かべるも、すぐに溶けかけた皮膚を引きつらせながら口の端を吊り上げる。


「フフフ……そうでなければな、息子よ。希望を持ち続けろ、僅かな光に向けて走り、足掻き。届かぬ絶望を見せてくれ」

「死ね」


 吐き据えて、眼を閉じきった。サーの思惑を掴めずに一人で眉を寄せてしまう。


「……この眼は、扉とは別物、ということだよね。これは単なる鍵穴のようなもので、本当の扉がどこかに、ある?」


 緩々と首を振り、みんなの元へ戻るためにユーは地面を蹴った。





 翌朝、ユーは目を覚ますとすぐにラポートの元へ向かった。彼女もすでに起きていたようで、杖を握りしめたまま振り返る。


「どうしました? ウィユ。表へ行くのは明日の予定ですが……」

「ちょっと、頼みがあるんだ」


 彼女に耳打ちをすると、見る間に目を見開いて行った。自身を凝視してくるその顔には信じられないと書いており、そんな彼女に苦笑しながらも確かにうなずく。


「きみにしか頼めないんだ。お願い」

 


「本当だもん!」



 幼い女の子の声に、ユーは振り返った。風の竜人の女の子が、目の端一杯に涙を浮かべ、体を震わせている。


「本当だもん、あたし、見たもん!」

「どうしたの? リール。何を見たの?」


 ヴェントがその子の体をヒョイと抱えあげると、女の子、リールは泣きながらヴェントにきつく抱きついた。しばらく背をさすっていると落ち着いてきたのか、目を擦りながら顔を上げる。しかし、その目は伏せられていた。


「あたしね、昨日ね、おトイレに行きたくて……少し遠い所に一人で行ったの。そしたら、そしたらね」

「うん、なにがあったの?」


 口元に耳をあてなければ聞こえないほど、かすれた声だった。ヴェントは頷きながらリールの話を聞き、続きを促す。

 リールの目が、チラとユーに向いた気がした。その視線に彼はスッと青ざめる。


「怖いおじさんがね、なんだかお目目みたいなものから出てきていたの」

「……え?」

「そのおじさんね、ユーとね、お話をしていたの。たぶん、ユーだと思うの、そのおじさん、むすこって言ってた。あたし、どうしていいかわからなくって……」


 再び泣き始めたリールを降ろし、ヴェントは振り返った。ジューメも、アンスも同じようにユーを見ている。


「ユー、まさか……」

「サーがいたのか、どこに!」

「彼はあの時に鍵となり、眼に封じられたのではなかったのですか。どうしてそのような大事なことを、教えて下さらなかったのです!」


 三人の問いに答えることなく、ユーは視線を逸らして顔を背けた。その行動に竜人たちは鋭く冷たい目を、ユーに突き付ける。


「ユー、どういうことなんだい?」

「怖いおじさんって、一体何者なんだ? 英雄たちはみんな、そいつを知っているのか!」

「ユー、答えてくれ!」


 攻め寄られ、それでもユーは顔を背けたままだった。ついに顔を上げることもなく翼を広げ、地面を蹴り去ってしまう。ヴェントはそれを追おうとし、サデルに静かに止められた。


「ウィユはな、きっと、ただでも苦しい状況にある中……余計な心配をさせたくなかったんじゃないかな。と、オレは思う」

「だからと言って、事情を知っているオレ達にまで黙っておく必要はなかったんじゃないか、とも思うけどな」


 ジューメはため息を漏らして頭を掻くと、睨みつけるようにユーの背を見つめ騒いでいた竜人たちを振り返った。

 龍を思わせるその瞳に、竜人たちは各々に口をつぐんでいった。


「てめぇらもし、一瞬でもユーを疑うようなことがあれば、許さねぇからな」

「ユーは……ユーは自分のお父さんと戦ったんだよ! 本当はユーが背負うことはないのに、世界を守るために、肉親と戦って、たくさん傷ついて……!」

「ヴェントさん。三年前の話をしなければ、彼らには一切伝わりませんよ」


 アンスは冷笑し、目を凍らせた。目を閉じて一度息を吐き出すと、次に目を開いたときにはいつもと同じ、少しだけ冷めた目に戻っている。


「あの黒い斑点が、流行した時の話です――」


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