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竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第一章 音ならぬ足音
2/59

1-1

 三年前、世界に異変が起こった。

 体に赤黒い斑点が浮かび、それが全身に広がってしまうと死に至る病が国で流行った時。その治療法を見つけだし、無償で薬を研究し、配給し、人々を死の恐怖から救った四人の英雄。

 ユーやヴェント、アンス、ジューメは今でも、人々から「四人の英雄」と呼ばれていた。本当は病とも違うものだったのだが、説明もしがたいために、四人は人々に合わせて病だったということにしている。

 ジューメは相も変わらず集落の外をフラフラしているようで、他の三人はこうしてたびたび会い、遊び、近況を話していた。


「ユー、まだ慣れないんだ。もう流石に、ボクは慣れてきたよ」

「ヴェ、ヴェントが慣れてもボクは慣れないの!」

「最近でも、局長さんが配達をされている時がありますよね。そんな日は全く外に出ようとしませんし」

「仕方ないでしょ! 家の外で人が待機してるんだもの! 出たら波にのまれちゃうよ!」


 頬を真っ赤に染め、口を尖らせながら両手で顔を覆うユーに、二人は楽しそうに笑った。

それからふと、ヴェントガユーの頭に手を伸ばす。


「少し、髪の色が戻ってきたね。なんだか不思議な髪色だなぁ」

「そうだね。ようやく、ショックが和らいできたのかな」


 と、ユーは銀髪をベースに、いくつかのラインのように入っている黒髪を掴んだ。口元に浮かんでいる柔らかい笑みは、傍にいる二人だけが気づいている。


「そのうち、髪の色も元に戻ると思う」

「そうかもしれませんね。ですが私としては、黒髪のユーさんは見慣れないので銀髪のままがいいです」

「でもボクは、黒髪のユーも見てみたい」

「あのねぇ。二人の要望に応えようとしたら頭が大変なことになるし、そもそも黒髪のボクは裏の世界で見てるでしょ」


 そう言って苦笑しているユーに、ヴェントは歯を見せて笑うと、頭をガシガシと撫でまわした。なぜかジューメに似てきているそれに、ユーは更に苦笑する。

 ふと、あくびを漏らしたユーに、二人は首をかしげた。


「ユー、お疲れ?」

「大丈夫ですか」

「うーん……。最近、ちょっと寝つきが悪くてさ。その、イヤな夢を見ちゃって」


 と、再びあくびを漏らしている彼に、ヴェントはわずかに眉を寄せた。言われてみれば確かに、ユーの目の下には薄くクマが出来ている。


「きちんと休まないと、体に悪いですよ」

「アンス……まさか、きみに言われるとは思いもしなかったよ」

「どういう意味ですか」

「そのまんまだよ」


 ユーに続いてヴェントが茶化すように言うと、アンスは二人に白い目を向けた。しかしすぐに、ニヤリと口の端を上げる。


「なぁに、私にとっては慣れたものですよ。睡眠よりも研究や発明の方が大切ですし、何より楽しいので」


 

 たった十五歳にして、アンスは竜の国全てのお医者様から信頼をされている研究者だった。前回の旅では何度かその力に助けられ、斑点の原因が最近の類ではないことを発見したのも彼だった。

 この国の誰も知らないような事も知っているが、それは彼が自身の足で国を回り、文献や書物を探した時に見つけ出したものらしい。アンスと知り合って二年後、今から一年前にようやく教えてくれたことであり、それらの文献も「他の者が悪用してはいけない」と、焼き払ってしまった。ようするに文献の内容は、彼の頭の中にしか残っていない、ということだ。


「それに、時間ももったいないですし」

「きみもそのうち、ぶっ倒れるな。たぶん」

「その脳内にどれだけの知識をため込めば、満足するのさ」


 ヴェントに小突かれ、アンスはクスクスと笑った。ユーもそれを見て微笑み、立ち上がる。


「じゃあ、あんまり遅くなっても局長さんが心配するから」

「わかった。今日はゆっくり休めるといいね」

「最後の手段としては、きみから薬を貰おうかな?」

「いつでもどうぞ」


 ユーが握っている拳に、ヴェントとアンスはそれぞれ自身の拳をあて。

 飛んで行く彼を見送るのだった。

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