6-1
ユー、ヴェント、ジューメ、サデルの四人を見送ったラポートとアンスは、すぐにみんなの元に戻った。それから、避難して来た竜人たちが持っているものを、ルシアルの兵に協力してもらいながらすべて回収した。そこでも『英雄』の名が役に立ってしまい、アンスはきつく眉間にしわを寄せてしまう。
集められたものは予想以上に少なく、食料も不安が残るほどだった。
「……ザッと見ただけでも、ここに居るのは千名前後。元いた竜人の、ほぼ半数……」
竜人たちを見てみると、互いに身を寄せ合い、体を震わせていた。時々漏れている声は怒りゆえか、悲しみゆえか。アンスには、判らなかった。
「この人数を、十日……」
アンスは帽子を取り、その中身を地面にぶちまけた。ビンや小型の機械、透明な袋に入れられた肉、他にはノートとペンが出てくる。
「干し肉と燻製のブロックが、二つずつ。えっと、これは……あの時の潜水艇? 流石に今は必要ありませんね」
と、潜水艇と筆記用具を帽子の中にしまい、食料を脇に置いた。今度はビンを拾い上げ、中身を確認する。
「栄養凝縮カプセルが二ビン、凝固水のカプセルが三ビン……。私が持っているものだけでも、約百名分の食料」
そして、ヴェントが機転を利かせて持ってきてくれた食料が、どうにか三人が十日生きて行けるだけの量があり、竜人たちが持っていた食料で五百人は耐えしのげるだろう。
それは、一日に最低限の食事を取った場合のことを考えてだった。
(どうしよう、思っていたよりも少ない。これではこの人数……どうしても、足りない)
不意に、肩に手を置かれ、アンスは背を震わせながら振り返った。そこには数名のルシアルの兵が、真剣な面持ちで立っている。
「私たちルシアルの兵は、一週間くらいならばわずかな水だけで耐えられるよう、訓練している。我々だけで約百名入るだろう、それで少しはマシになるか?」
「なんだ、水の兄ちゃん。そんな怖い顔して」
彼らに続き、無精ヒゲを生やした雷の竜人が来た。いつの間に、眉間にしわを刻んでいたのだろう。アンスは目を閉じると深く息を吐き出し、男性に事情を話す。
それを聞いた男性はしばらくヒゲをなでていたが、頭を掻きながら立ち上がると元の場所へ歩いて行った。
「おーい、集落の外のやつらー。それと雷のやつら―。ちょいと、この兄ちゃんに協力してやってくれー」
「言われずとも、喜んで協力させてもらいますよ」
声に呼ばれ、出て来たのは雷の竜人の長だった。彼らの話を聞いてみると、雷の竜人たちは集落がある場所の事情により、毎日食事をすることはないらしい。そのため、少なくとも三日に一度物を口に入れられれば、生きていけるとのことだった。
ルシアルの兵たちと、雷の竜人と、集落の外で生活をしている竜人たち。
アンスはしばらく黙り込み、小さく頷くと彼らに向けて深く頭を下げた。それから全ての竜人の前に立ち、翼を広げると、みんなを見渡せるよう宙に浮く。
「全ての物を管理するため、私に一任させていただけませんか。たった一人の身勝手が、我々全員の命に関わるような状況なのです」
「あぁ、英雄四人組の一人だ。何の心配もいらないよ!」
誰かが言った言葉はあっという間に伝わっていき、みなが同意してくれた。アンスはひとまず胸をおろし、龍たちを見上げる。
「あなた方の食事は、どうすれば……?」
「我々成龍は、食事を必要としない。コン」
ライトニアが呼ぶとコンは目を閉じ、幼くも一声、高らかに鳴いた。彼はその姿を変えていき、見覚えのある格好になる。
他の竜人たちは、その姿に戸惑いを隠せずにいた。なぜならそれは、黒髪のユーだったから。
「この子はまだ食事の必要がある。……物資の調達が不安なのならば、我々もあちらへ出向こうか」
「いえ、もしあなた方に手伝ってもらうつもりなのでしたら、ユーさん達はそう言っているでしょう。あなた方がいなくなってしまえば、悔しいけれど、こちらにいる者たちでは魔界の住人に襲われた時、心もとない」
「だろうな」
「えぇい、お前たちが口を開くとややこしいことにしかならんから、黙ってろ!」
鼻を鳴らすように笑うソーリスを、ライトニアは一括した。それに今度はブリストが突っかかり、サドリアに全力で止められているのを見て、アンスはこんな状況なのに思わず笑ってしまう。
「では、えっと、コンさん」
「コンでいいー!」
じゃれつくように抱き着いてきたコンに、アンスはどうにか翼を広げて衝撃を抑えると、倒れないように体制を保った。背中に張り付くコンをそのままに食料の元へ歩くと、ルシアルの兵たちに手伝ってもらいながら、食料を分けていく。
「では、妊娠をされている方から優先します。それから子供、ご老人、女性、男性の順番でお並びください、ご安心を、少量ではありますが全員分の食料はございます」
アンスの言葉に、彼らは混乱することもなく。キチンと並んで食料を受け取っていくのだった。