5-3
表の世界に来て、三日が経った頃。
サデルとヴェントは風を使って連絡を取り合い、一度ルシアルに集まることにした。それぞれは袋を持てるだけ抱えており、見た目の違いにジューメとヴェントは目を見開く。
「よ、そっちは無事みたいだなー。よかったよかった!」
「よかった、って。お前らどうしたんだ、怪我だらけじゃないか!」
サデルとユーは、打撲傷や擦過傷、切り傷にまみれていた。ヴェントは荷物を落とすように地面に置いてユーに駆け寄り、ジューメもサデルに近寄る。目を細め、その傷を見ながらも、上着のポケットから軟膏を取り出した。
「ユー、大丈夫? なにがあったの?」
「……この三日、オレ達の前には、ほとんど魔界の住人は現れなかった。お前たちに集中していたのか」
静かに問うジューメに、ユーは申し訳なさそうに眉を寄せながらサデルを見上げた。彼はそれにキョトンと首をかしげ、歯を見せて笑い、見上げてくる頭をなでまわす。
「なに、悪いな。お前たちの獲物を取っちまって」
「眼を、狙って、ね。でもヴェント達が平気そうで、よかったよ」
「よくねぇだろ」
口の端を緩く上げているユーの頭を、ジューメは間髪入れずに小突いた。渋い表情をしながら腕を組み、小さくため息をつく。
「一緒に行動していればよかったか……」
「何を言ってんだ、時間の無駄だろ。今日はとりあえず現状報告と、体の休息だ」
ジロリと睨んでくるサデルに、ジューメは思わず視線を逸らした。なおも紫色の瞳が、ジットリと見つめてくるのを肌で感じる。
「さぁて、ジューメ。なんでも屋として教えたことを言ってみようか?」
「えー……。行動は迅速に、依頼は内容を考えて」
「バッカ野郎! 一番初めに教えたのは、休む時には休む。だったろうが! このガキっ!」
拳骨を脳天に食らっているジューメを横目にヴェントを見てみると、目の下にクマが出来ていた。ユーが見ていることに気づいたのだろう、彼は目を擦りながら苦笑する。
「あはは、ジューメったら、本当に怒られてるや」
「あんまり寝てないの? 大丈夫?」
「平気だよ。こっちには全然、魔界の奴は出てないんだもん。その分、集められるものは集めてきたよ」
と、ヴェントは袋の口を開いた。中にはロープやナイフ、短剣、薬草、砥石。毛布や大きめの器が数個に衣類。
そして、草の茎も入っていた。
「あ、それこっちでも集めた」
「ネロの茎って呼ばれてるらしいよ。ジューメが持ってる袋の半分以上はこれ、残りには木の実や干し肉、干し魚が入ってるよ」
「ボクが持ってる袋も、半分はこれ。あとは同じように干し肉に魚の干物、内臓の塩漬けに海水、度が高いお酒」
「ほら、そっちは確認を終えたみたいだな。チビ達はもう寝て、オレとこいつで見張りはするよ。特にヴェント! ジューメに付き合ってほとんど寝てないみたいだからな。何も気を張らないで、ちゃんと休めよ」
ビッと指を突き付けるように言うサデルに、ユーとヴェントは苦笑した。
四人は大天使の間に移動すると、ジューメとサデルは扉へ。ユーとヴェントは隅の方で壁に寄りかかると、目を閉じるのだった。
日が落ちて夜を迎えるころ、部屋に広がった何かの力に、二人は同時に目を覚ました。得物に手を伸ばしながらも、魔界の力とは違うそれに、近くに来ていたらしいジューメとサデルを見上げる。
「異世界での十日が、こちらでは三日と半分くらい、か」
「これから物を調達するときには、気をつけないといけないな」
と、荷物を漂う光の中に放り込みながら、四人は顔を見合わせた。自分たちも光の中に入りながら、眉を寄せる。
「さぁて、これでどれだけ持つか……」
「怖いことを言わないでよ、サデル」
「いつでも、最悪の時のことを考えておかないとな?」
「嘘つけ。お前は大概、最高の時のことしか考えてないだろうが」
歯を見せながら笑っているサデルを、ジューメは膝で軽く小突き。
光に包まれていくのを感じながら四人は目を閉じたのだった。