表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の国 ~未来のために~  作者: 夢野 幸
第五章 親
16/59

5-2


「……おっさんが、オレを連れて行かなけりゃよかったって。そう言ったんだ、それにオレはブチ切れてさ。オレは足手まといなんだろ、とか。邪魔者なんだろ、とかさ。オレなんかいなければよかったんだろ、とも言ったっけ」


 話をしていると、いつの間にか風の集落にたどり着いていた。二人は翼を畳み、地面に足をつける。

 辺りを警戒しながらも集落を歩き回り、家々の中から毛布やナイフ、砥石などを拝借していった。ヴェントはふと自身の家に入り、部屋を覗き込んで目を伏せる。

 そうしているとジューメの手が頭に置かれ、顔を上げた。


「何か、思い出のものでも持って行けないかな。と思ったんだけどさ、これだけ荒らされてたら、何も残ってないね……きっと」

「ほら」


 手を降ろし、ジューメは何かを頭に置いた。それに手を伸ばしてみると、今はあまり被っていないが、ユーと初めて会った時に被っていた帽子だった。


「お前の家の道具も、役に立たせてもらうぜ」

「うん、当然だよ! 使えるものは持って行こう。それで、話しの続きは?」

「あぁ。おっさんはオレのこと、怒りもせず愛想もつかさず。ただ、ガキの特権だから……怒鳴り散らして喚き散らして。全部吐き出して、泣いちまえって。そう言われたよ」

 

 泣け。それは、ジューメも言う言葉だった。彼はヴェントから視線を外すように道具を集め歩き、翼を広げる。着いて行くと拠点に向かっているようで、荷物を置きに行くのだろうと予想づける。


「まぁ、おっさんはオレに取って、師匠であり生きる術を教えてくれた人であり……。親とは、なんか違うよな」

「……最初、アンスの研究所に入った時にさ。ものすごく怖い顔をしてたよね。もしかして、それって……」

「マジか、気づかなかったな。……どうしても、その時のことを思い出しちまうんだ。研究所を見たり、実験なんかを見たりしたら、な」


 目尻を下げながら笑うジューメに、ヴェントも思わず目尻を下げてしまった。そんなヴェントの隣に来るまで速度を落とし、横に並ぶと彼の頭をグシャグシャに撫でまわす。


「ま、アンスは自身の好奇心を満たすためだけじゃなく、他の奴を助けるためにそうしているっていうのは解ってる。だから、平気だよ。話がそれたな、オレはオレを捨てた奴らの名前なんか使いたくなかった。それよりもオレに、つまらない事にこだわらず、生きろと言ってくれたおっさんの名前を使いたかった……こんなこと、何を狂っても本人の前じゃ言わねえけどな!」


 照れくさそうに笑うジューメは、どこか子供の様に見え。

 空に向かって走り出す彼の後ろを追いかけるように飛びながら、ヴェントは微笑んだ。





 拠点で荷物を整理しながら袋に詰めていき、ジューメは外を見た。ヴェントもつられるように顔を上げ、眉を寄せる。


「わぁ、もう夕方だ。まだ一睡もしてないのに」

「……おっさんがいたら、思いっきりぶん殴られそうなことしてるな、オレ」


 渋い表情をしながらも立ち上がり、大剣を背負った。岩壁に背を預け、うとうとと船を漕いでいるヴェントに、躊躇いがちに声を掛ける。


「ヴェント、お前はここで待ってろ。必要なものとは言っても数はそんなにないからな、オレ達も少しは食料を集めようと思うんだ」

「え、あ、夜にならないと取れないものがあるの?」


 ヴェントはパッと顔を上げ、傍に置いている長剣に手を伸ばしていた。ジューメは一つに縛った髪を揺らしながら振り返り、口の端を上げる。


「昼の間に水を吸えるだけ吸って、夜に消費していく植物がある。大きさにもよるが、茎一本で、一日に最低限必要な水分が一人分は取れるんだ。それを集めれば普通に水を取るよりも効率がいい、その植物は、今の時間に一番水分を溜めているんだ」

「ならボクも行くよ、一人よりも二人の方が多く集められるでしょ?」

「その間、ここが留守になるだろ」

「へへっ、心配ないよ」


 どこか得意げに笑い、ヴェントは剣を腰に下げると洞穴を出た。ジューメもそれに続いて翼を広げ、目を閉じて息を整えているヴェントを見る。

 彼が目を開き、腕を真横に素早く広げると、その場に竜巻が起きた。それは見る間に成長していき、最終的に洞穴の入り口はその竜巻に塞がれてしまう。


「ほら、これで大丈夫でしょ?」

「へぇ、確かに竜巻に見えるのに、洞穴の中には影響を与えてないのか。いつの間にこんなに上達したんだ? 初めて会った時なんか、満足に使えもしなかったのにな」


 口笛を吹き、からかうように言うジューメに、ヴェントは頭を掻いた。照れたような、恥ずかしがっているような笑みを浮かべ、ジューメのことをまっすぐに見る。


「ボクはどう頑張っても、ユーにもジューメにも勝てない。それにアンスは頭がよくて、いろんな発明が出来る。こんなんじゃあ、ボクの立場がないじゃない? これくらいは出来るようにならないとさ」

「言うじゃねえか、こいつっ」


 と、ガシガシと頭をなでまわされるのにヴェントは楽しそうに笑い、二人は洞穴を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ