5-1
サデルがユーを連れ去ったあと、ジューメとヴェントも同じように塔を後にしていた。向かう先は、ジューメが拠点としている洞穴。
「……ねぇ、ジューメ」
「なんだ」
「サデルとはどんな関係なの? 本当に親子だったりするの?」
ヴェントの問いに、ジューメは翼を止めてしまった。一瞬体が降下しかけたのを慌てて止め、翼を動かし、その場に滞空する。錆びた機械のように振り返り、白い目をヴェントに向けた。
「だ、れ、が。あのおっさんと親子か! そもそもオレは炎の竜人で、おっさんは炎と風の竜人の混血だ!」
「でもファミリーネームは同じだし、なんだか仲がいいからさ」
訊ねるヴェントの表情は純粋に不思議そうで、ジューメは深いため息をついた。星空を仰ぎ、苦々しい表情で頬を掻く。
「まぁ、なんだ。作業をしながら話してやるよ」
いつもと様子が違うジューメに、ヴェントはコトンと首をかしげながら。
彼の後をついて飛ぶのだった。
「――オレはガキの頃、盗賊家業をしていたんだ」
拠点で荷物をまとめ終え、他に使えそうなもの――ナイフやロープ、砥石、クスリやそれを作るための薬草などを捜すため、二人は森に入っていた。そこでジューメが、ポツンと漏らす。
「親に見捨てられ、集落からはじき出され。それならオレは一人で、だれにも頼らず生きてやる。と、思ってたんだけどなぁ」
「親に、見捨てられた……?」
声が低くなるヴェントに、ジューメは茂みを漁りながら口の端を上げていた。
「あぁ。オレの家は貧乏でな、明日食うものも必死な生活だったんだ。……それで、オレが十八の時。オレは親父とお袋に売られた」
「う、売られた? どうして、どこに!」
「オレが、龍が持っていると言われてきた、尾と角を持って産まれたからさ」
ヴェントに背を向けたまま、ジューメは言った。その背に、目尻を下げ、思わず作業する手を止めてしまう。
「アンスのところほど上等なもんでもなかったが、オレが売られたのはどうやら研究所と言っていい場所だったらしい。格好の研究材料だったんだろうよ、オレは。……んで、集落を出て、生きるために盗賊になった。その時にあのおっさんと会ってさ。もう強引だった」
当時を思い出したのだろうか、ジューメは不明瞭なうめき声と共に頭を抱えてしまった。パタパタと揺れる尻尾は、彼がそのことを嫌がっているようには見えず、ヴェントは見えないことを言い事に微笑んでしまう。
「あんの野郎……とっ捕まるか自分の相方になるか選べと、脅してきやがった。んで、一応盗賊はやってるわ、捕まったらどうなるか判んねぇわ。実質一つなわけだ、選択肢が。逃げ出すにもバカに強いしな、あのおっさん。おまけに風を使って追いかけてきやがる」
「あー、あのおじさんならやりそうだね」
緩い笑みを浮かべるサデルを頭に描き、苦笑してしまった。先ほどジューメから見せてもらった葉を袋の中に集め入れていき、時々、食べられそうな木の実も一緒に入れる。
「それからオレはあいつに剣術を教わり、武器の手入れのやり方、森で生きるための手段や知識を学んだ。それから一か月くらい経って、初めて、あいつの仕事に着いて行くことになった」
薬草や木の実を袋一杯に入れ終えた頃には、太陽が空に昇り始めていた。魔界の住人とは遭遇することもなく、二人は風の竜人の集落へと向かう。
「依頼内容は、とある研究所をぶっ壊すこと。オレが、親に売られた研究所だった。一度目は、無様にもオレのミスで大失敗さ」
「ジューメでも、失敗することがあったの?」
目を丸くしているヴェントを視界に入れてか、ジューメは苦い表情を浮かべた。
「当然だろ。最初からなんでも知ってたわけじゃあないし、仕事を出来たわけでもない」
口の端を上げて笑っているも、何となく弱々しいものだった。
「ひねくれるに、ひねくれていた頃だったからな。オレは自分の失敗を棚に上げて、おっさんにメチャクチャなことを怒鳴り散らしたよ――」
目を緩く閉じ、自嘲的な笑みを浮かべていた。それは何かを思い出しているようで、ヴェントは黙って、彼が再び口を開くのを待った。