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翌朝。早い時間に、英雄の四人とサデルの五人は、頭をくっつけあうようにして座っていた。遅れてラポートも合流し、ユーは彼女と視線を交わす。
「とりあえず、魔界の住人はここでしのげそうだけど。根本的な問題が残ってるよね」
「そうだな。おい、大天使ラポート。裏と表の往来は、すぐに出来るものなのか?」
「それは……」
ジューメの問いに、ラポートは杖を見つめた。
杖の頂点にある宝石が、昨日よりも縮んでいるように見える。ユーは思わず目を擦り、再びそれを見る。やはり、一回りほど小さく見えた。
「兄でさえ、続けて往復することは出来なかったと思います。恐らく今開けば、次に開けるのは六日後か、七日後か……」
「なんだ、何か問題があるのか?」
深刻な表情をしている五人に、サデルはキョトンとしながら訊ねた。ジューメは軽く眉を上げ、そんなサデルを見る。
「そう言えば、この世界のことは話していなかったな」
「本当だぞー。それに、龍のことも光の竜人のことも、聞いてないしな。お父さん寂しいぞー」
「うっせぇ、死ね」
吐き捨てるように言うと、サデルはいじけて背を向けて座り、地面に指で落書きを始めた。それを見てユー達は苦笑し、ジューメは面倒くさそうに頭を掻き毟る。
「相変わらずだな、おっさん! この裏の世界は表の世界と違って、オレ達表の住人以外は、全てが死んでいるんだ。つまり、オレ達が生きるために必要最低限なもの……食料や水が、一切手に入れる事が出来ない世界なんだよ」
「なら、向こうに取りに行けばいいじゃん」
「だから! それを! 今、話し合ってんだよ!」
地面に突っ伏しながら頭を抱え込むジューメに、サデルは何の悪気もない笑い声を上げると、彼の背をバシバシと叩いた。それにむせているジューメを見て、ユーは必死に、口の端が上がっていくのを我慢する。ふと目を向けてみると、それはヴェントも同じようだった。
「えっと、そうだね、余裕を見て十日間は表の世界に居ようと思う。その間、アンスにこっちをお願いしたいんだ」
あちらで行われている漫才を横目に、ユーは表情を引き締めると、アンスに顔を向けた。その言葉に彼はわずか、目を開くが、すぐにいつもの表情に戻るとうなずく。
「そうですね。私が今、ユーさん達に着いて行ったところで、ただの足手まといとなるでしょう。私はあなた方のように、魔界の住人に抗えるだけの力を持ちません」
「十日……今あるもので、耐えられるかな」
ヴェントの心配そうな声音に、アンスは彼を振り向いてニヤリと口の端を上げた。
「えぇ、きっちり計算をして食料を分け、水分もどうにかいたしますよ。それに、ヴェントさんが表の世界が襲われてすぐに、多くの食料を調達して来てくださいました。私も、持てるだけの機器などは持ってきております」
「そうだなー。オレはこの、銀髪の坊やと動こうか。ジューメはそっちの、風の坊やと一緒にな。えっと、風の子、お前の名は?」
「ヴェント=ラミティ。銀髪の子はウィユ=オスキュリートで、こっちの水の子がアンス=インヴェンター」
いつの間に漫才を終えていたのか、サデルがヒョイと身を乗り出してきた。ヴェントが簡単に紹介をしていくと、サデルは満面の笑みでうなずく。
「そっか。じゃあ、ジューメとヴェントは生活の上で必要なものを、オレとウィユは食料品を探しに行くぞ」
サデルの指示にジューメは素直にうなずき、それを見たユーとヴェントもうなずいた。ラポートはどこか不安げに瞳を揺らしており、ユーはそれを見て微笑む。
「心配しないで、ボク達が、魔界の住人なんかに負けると思う?」
「……無理だけは、しないでください。決して、もし深く傷ついてしまったなら、ルシアルの集落の、大天使の間に向かって。あそこならばきっと、少しは安らげるから」
「ありがとう。ラポートは兵のみんなに、アンスを支えるように伝えて。アンス、こっちを頼んだよ」
「任せてください」
と、緩く握った拳を上げるアンスに、ユー達も自身の拳を軽くぶつけ。それを見たラポートは四人を光で包み込むと、表の世界へと送るのだった。