3-2
話をしているうちに、ようやく心臓が落ち着いてきた。周囲もそうだったのだろう、長く息を漏らしている者もいる。
それから、その静寂を最初に破ったのは、ライトニアだった。
「ダリエス、彼のことだが。彼は先日亡くなった」
ライトニアの言葉に四頭は再び、同時に吼えていた。それに竜人たちはまた耳を塞ぐが、ついには気を失うものまで現れてしまう。ユーもどうにか耳を押さえながら、ライトニアの言葉には耳を傾けていた。
「待て、待て、待て! 彼は寿命をまっとうしたのだ、別に魔界の者によって殺されたわけではない!」
「ならばライトニア、お前とその子龍でこの世界を支えていると、そう言うことなのだな!」
ブリストはライトニアの腕の中にいるコンに、グイと顔を近づけた。それにコンはおろおろと視線を泳がせ、腕の中を抜けるとユーの傍に来る。不安そうに頭を押し付けてくる彼に、ユーはふと笑みを漏らしながら、体を両手で包んでやった。
「いや、残念だがその子にはまだ、それだけの呪力はない。私が一人で支えている」
「呪力がない、だと! ダリエスの子ではないのか、そんなことがあってたまるか!」
「彼の子の、子だ」
「ならば、彼の子はどこにいる!」
ソーリス参戦するよう、ブリストに勝る声で怒鳴った。それにうんざりとした表情を浮かべ始めるライトニアに、マリアナがどうにかソーリスをなだめる。
「昔っからだ、お前たちの世話をしていると必要以上の体力を使う。……彼の子はコンを産んだ直後に、亡くなった。子を成すのが早すぎ、呪力が枯渇したのだ」
「だが、ダリエスが亡くなったとなれば、封印は今どうなっている? 魔界の者はなぜ、我らが国に雪崩れ込んで来られた?」
マリアナが比較的落ち着いた、それでも怒りを感じられる声で問うた。ライトニアは竜人で言うところの眉間にしわを寄せながら、首を振る。
「まだ、封印は続いているはずだ。彼の呪力の強さはお前たちもよく知っているだろう、過去には一人で、我々を奴らから守ってくれた」
「あぁ、よく知っているし、つい昨日の事のようによく覚えているさ。だからこそこうして、何が起きているのかを訊ねている」
「表では何が起きているのだ、こちらからそちらの事情を知るには限界があるんだぞ」
「お前の呪力が小さいからだろう」
「少なくとも、貴様よりは持っているわ」
ブリストが鼻を鳴らして笑うと、ライトニアは即座に切り返した。それからユーに視線を向け、それに気づいたのだろう、ユーは顔を上げる。
「ごめんなさい、ボクの力が、至らなかったばかりに」
「ウィユ、きみを責めているのではない。私はただ、何が起きているのかを知りたいのだ」
と、ライトニアはユーに、そっと口を近づけた。ユーはそんな龍に緩々と手を伸ばし、寄りかかりながらも首を振る。
「解りません、突然で……ごめんなさい、少し考えさせて……」
「オスキュリートの者よ、ダリエスに認められた血族よ。お前が自分を責める必要は、一切ないのだぞ。お前たちが重い任を背負わされているのは、良く解っている」
サドリアが諭すように言い、彼もまた、ライトニアと同じようにユーへ顔を寄せた。その光景に竜人たちは、唖然と彼を見つめている。そんな竜人たちを見てか、ブリストとソーリスはどこか愉快そうに笑った。
「今宵はもう遅い、何もかもを忘れて眠れ」
「何人か、見張りを立ててた方がいいんじゃねぇの?」
サデルが言うと、龍たちは彼に視線を落とした。互いにチラと視線を合わせ、うなずく。
「お前たちは休むといい、我々が見ていよう」
「何をするにしても、行動を起こすのは夜が明けてからだ」