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プロローグ

 20XX年、ロボット工学が発展して人の生活にちょびっとだけ身近になってきた今日この頃。

特に人型の大型機械はとうとう陸空海を駆けるまでになって今日も世界のどこかで工事現場や血生臭い戦場、果ては興行の場で競技スポーツとして日夜活躍している、それがロボット世紀15年目の今日。

たった五年前にはとうとう教育の場にまでロボットは姿を現すまでになった。

「雨坪君、援護を求む!モモが速すぎてこのままじゃ勝負にならないよ!」

「フッ、このアングレーム、ノイシュタットとは違うのだよ!」

「くっそ!卑怯だぞモモ!ホバーすんな!こんなの反則だあ!というか雨坪君は動いて!」

今日も晴天の下、砂埃が舞い上がるグラウンドで体育の時間、3機の機体が走り回ってペイント弾を飛ばし合っている。

その中でも一つ、尖った細身のフォルムが印象的の、一本のラインのセンサーを持つ濃紺の機体が滑るように地を走り、素早い動きでこちらの味方機を執拗に狙って嵐のように銃撃をかける。

アングレーム。

ロボット業界の最大大手ワイジー社が普及機として販売している安物で、しかも型落ち品だ。

予算をかけるのを渋り続ける我が校がようやく買い与えたロボット部唯一の機体だが、それでも体育用に学校に所持しているノインより動きも力も強いのだからやってられない。

一方所々箱型のパーツで構成された四角く古臭い単眼の水色の機体、ノイシュタット、通称ノインは本来は四機あってこの体育の演習試合も二対二で平等に行われるはずであったが相手であるロボット部の少女、小市百彗が部活用の機体を引っ張り出してきた。

ノイシュタットはかつては御三家とも言われたアシッグ社の誇る汎用機なのだが、ただでさえメンテナンスが劣悪でしかもこれまた超中古の掘り出し物なのに競技用にチューンされた機体と戦わされるのでは勝ち目が無い。

「あああああ!ペイント弾もレーザーソードも当たらんし!雨坪君は見ているだけだし!」

「ハッハッハ、どこへ行こうというのかね矢倉!」

味方である、これがまたロボット部に属する女子生徒の矢倉は機体を懸命に走らせているが出力に絶望的な差のあるアングレームにすぐに先回りされ、その度に非殺傷のレーザーソードを振り回すがアングレームは速やかに後ろへ下がる。

二対二で実際の競技に則したこの演習試合はペイント弾かレーザーを相手の機体に直撃させて点を奪い合い、最終的な点数が高いチームが勝者となる。

学校の授業で扱えるまでにロボットの操縦は簡単になったがやはりロボット部ともなると、例え性能が段違いでも点の取られすぎによるノックアウトにはそう易易とは持っていかれない。

趣味の悪い小市はよくアングレームで素人を滅多打ちにする性悪女であるが一方矢倉は正々堂々と立ち向かう。

現在進行形で後ろを取られてバックドロップを喰らっているが彼女なら大丈夫だろう。ロボット部だし。

しかし俺にとっての問題はもう一方の敵だ。

「フッフッフ……矢倉は小市がやってくれるから援護は期待できないぜ。勝負だ雨坪君、今日こそ決着を着けようじゃないか!」

もう一機残ったノインの乗り手、水泳部所属の狩野賢輔が小市並に恥ずかしい単語を並べながらレーザーソード一本で正面から突進してきた。

ホバーすらできない授業用のノインなのでアングレームと比べてとても見劣りする遅さである。

正面からの突進に対し、一歩も動かずに右手に握られたアサルトライフルを向ける。

確かにロボットは素人でも使える程の代物になった。

だがこちらは、ノインの使い方が深く身に染みている。

「男なら!タイマンの接近戦だー!」

威勢良く狩野が斬り掛かるぎりぎりま発射を待ち、振り出す瞬間を見抜いてゆっくり攻撃を回避。

ペイント弾は制限によリロードが遅い上に学校の整備不良で精度も不安定。

素人の学生なら中距離の武器として頼るがこいつの本当の扱い方を知っているのは俺とロボット部の面々ぐらいだろう。

大きく体が開いた隙にノインの懐にアサルトライフルを入れ込み、引き金を引く。

コックピット部に着弾しピンクの塗料がぶちまけられ耳障りなブザー音が発せられる。

着弾の合図だ。

レーザーソードかペイント弾が機体二当たった場合、センサーが反応してポイントが削られる。

当然部位によって点数は変動し、コックピット直撃は最も高い。

ちなみにバックドロップ等の肉弾戦におけるダメージは算出されない。

「うおおおお!?な、なんのこれしきぃ!」

「薄鈍が……!」

コックピットへの着弾でグラウンドからは小さなどよめきが起こったが苅野は懲りずに挑んでくる。

機動力の無いノインでの特攻は自殺行為で滑稽だ。

すかさず隙だらけのコックピットに二撃目を、レーザーソードを突き刺そうとした。

「タイムアップ!そこまで!!」

と、同時に主審の体育教師から終了の合図が出された。

試合終了だ。

「ぬあああああ!試合に勝って勝負に負けたぁぁぁ!おのれ、よくもやったな雨坪ぉ!」

苅野の断末魔は聞こえているがモニターを注視すると苅野の機体のポイントはゼロになっていない。

どうやら時間ギリギリでレーザーソードは届かなかったようだ。

それと相方の矢倉の反応も無い。モニター上もポイントがゼロだ。

しかし元々整備不良のノインでは部活の機体に勝ち目など無かったのだから仕方が無い。

そもそも体育での試合など俺には微塵も興味無い。

これで勝とうが負けようが俺には関係無い事だ。

それなのに他の輩は無駄にはしゃぐ。

鬱陶しい事この上ない。

「おのれ雨坪!俺は認めんぞ、絶対に次は勝ってやるからなぁぁぁ!」

燃える男、苅野と勝ち誇る小市の周囲にずらずらと他の生徒が集まっていく。

まるで彼らはヒーローのようだ。

小さな町の平凡な中学校、これが残念ながら俺の故郷であり今の居場所である。

「チッ……雑魚が。」

このつまらないチッポケな世界で、俺はまだ戦っている。

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