瓦礫
短い短編です。
あいかわらずよくわからないものです
僕達の世界は滅んだ。
あっけない最後だったという。
僕が物ごころついた時点で世界は滅んだ、もう未来はないとか大人は言っている。
なら僕達が生きているここはどこなのだろうか?世界は滅んだと言うのに存在していここはいったいどこなのだろうか?
子供心でも大人にそんなことを聞いても答えは帰って来ないとわかった。だから聞かなかった。
こうして大きくなってもうすぐ身体だけでなく、心も大人になっていくんだろうという歳になっても、僕の疑問がなくなることはなかった。
確かに文明は滅んだのかもしれない。でも、世界が滅びたというのは悲観的過ぎやしないだろうか?
僕は思うのだ。僕達は確かに現代を失った世代だ。だが未来を託された世代でもあるのだと。
だから決心した。ここを旅立とう。僕は現代見なくてはならない。そして伝えなくてはならない。
僕は旅に出た。背中に背負った小さな鞄に必要だと思う道具を詰め込んで、僕は瓦礫の道を歩き出した。
様々な場所を見た。
あるところは大きな破壊痕が大地を抉り取っていた場所だった。人骨がたくさん落ちていた。
あるところは物静かな場所だった。生きた人の生活が影となって焼き付いていた。
あるところは木々が茂っていた。皮肉なことに人がいなくなっても自然はなにも変わらなかった。
様々な人を見た。
ある人は神に祈っていた。神が世界を再び創造して、楽園へと導いてくれることを祈っていた。
ある人は人から物を奪っていた。生き残るには弱者を淘汰しなければならないと言った。
ある人は諦めていた。世界は滅びたのだと、生きる術はないのだと言っていた。
僕は歩いた。歩き続けた。
時には目を覆いたくなった。継ぎ接ぎだらけの世界に。ここには様々な世界が溢れていた。その一つ一つが諦めに染まっていた。
人々は理不尽に心を削られていた。多くの人が理不尽だと嘆き、苦しみ、うなだれていた。
僕はやがて、歩くだけではダメだと思った。
僕は言葉を交わすようになった。
「こんにちわ」
僕は挨拶をした。旅に出てから久しく使わなかった言葉だ。これまで歩いてきて挨拶をしている人を僕は見たことが無い。
当然挨拶をされて人は驚いた。僕の顔を見て見かけない顔だと訊ねてくる人も多かった。
挨拶をするだけで、僕は世界に干渉することが出来た。諦め一色の世界に僕という色を少しだけ混ぜることが出来た。
僕は色々な場所を巡った。色々な人と言葉を交わした。様々な悲観的観測をする者たちの意見を聞いた。時には、どうしたらいいか意見を求められることもあった。僕は必ず答えた。
「確かに、世界は滅びたかもしれない。でも一つだけ確かなことがある。僕達は現代を生きていかなくてはならない」
僕は歩いた。いつの間にか僕の後ろには人がたくさんついてきていた。
僕は問いかけた。何故僕についてくるのかと。
「貴方に着いていけばみれるかもしれない。この世界の、いや、私達の行く末を」
僕は大げさだと言った。後ろの人たちは私達が勝手に思っているだけだから気にするなと言った。
僕は歩き続けた。世界が滅びたと言う人を見かけることが次第に減ってきたように感じる。
世界は揺るがない。揺らぐのは人の心だ。世界は僕らを突き放す、否、僕達が突き放しているのだろう。
僕の旅は歩き続ける。
どれくらいの時が過ぎただろうか?僕は歩みをとめた。後ろを振り返ると僕の背後には大勢の人が立っていた。
僕は歩いてきてひとつ、アイデアが浮かんでいた。僕は大きく息を吸う。
「まだ、世界は滅びたと思いますか?」
僕は人々に訊ねた。
「ええ、世界は滅びました」
人々は答えた。
「でも、僕達は生きています」
「ええ、生きています」
僕はそこで辺りを見回す。人々の目は、世界が滅びたと言いながらも、かつてのように諦観の色に染まってはいなかった。
「僕は、貴方達の世界を滅ぼします」
僕は告げた。人々の言う、滅びた世界を滅ぼすと。
「そうですか」
人々は笑った。
「世界は再生するんです」
僕の旅は終わった。
思えば、僕の旅はささやかな反抗だったのだ。
生まれてから世界は滅びたと言われ続けていたことに。
僕は生きているのに、世界が滅びたと認めたくなかったのだ。
世界は終わらない。
僕が僕である限り。
キミがキミである限り。
僕は歌を口ずさみ始めた。
それは世界の産声だった。