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アイリスの遺産  作者: ジョージ
▼Season 1
1/3

    「ダイコンノニノノ」(一新しました)

書き直ししました。内容が変わらない、読まなくても今後に支障ない程度に加筆をしています。

 ある所にティスニアという国にある、ガザという小さな町があった。

 ガザはティスニア海の上方、標高382mに位置する高い崖を見下ろす場所にある。

 石壁の小さな家々がいくつも連り崖下に広がる海を見下ろす様な作りで、遠方からガザを望むと大きな要塞のように見える事から「ティスニアの要塞」と呼ばれている。


 

 そんなガザの一角に甘い香り漂う場所がある。

 匂いに誘われ道を上って行けば、一軒の飲み屋にたどり着く。

 店の中からは賑やかな声が飛び交い乱雑としているが、その中で一心に動きまわり、笑顔を振る舞う小さな女がいた。


 湯気昇る大きな鍋に大きなおたまを突っ込んで、ごろごろとした色鮮やかなオレンジ色の芋を慣れた手つきで皿に盛りつける。後へ束ねられた長い黒髪が、彼女の動きに合わせ尻尾のようにピョコピョコと踊った。


 カランとベルが鳴り一人の男が入ってくると、彼女は周りの声にも負けぬ大声で「いらっしゃーい!」と叫んだ。

 勿論営業スマイルも忘れずに。スマイルはゼロ円です。



「アイリちゃんラーダ2つ! あとニクジャガとダイコンノノノモ!」


「はーい! ラーダ2つと肉じゃかと大根の煮物、いっちょねーー!」



 あまり原型を留めていない注文にも慣れた様子で、またもオレンジ色の芋と何の動物かわかりたくもない肉で出来た肉じゃがを皿に盛りつける。大根もまたしかりで、見た目は大根なのだがこれは木に生っている。

 この料理の正式名称は「肉じゃがもどき」と「大根の煮物もどき」だ、と器に盛りつけながら彼女は思った。

 もどきになってしまうのも仕方がない、ティスニアにそんな名前の料理はなく、彼女が慣れ親しんだ日本の料理だから。



 ガザの飲み屋で働く彼女の名前は、橘愛梨たちばなあいりといった。

 二年前からここで働いている。……じゃなく、二年前からこのティスニアで暮らしている。

 最近は彼女自身ここでの生活が当たり前になってしまい、つい忘れてしまうのだが、愛梨は外国に来ている訳ではない、簡潔に、かつわかりやすく言ってしまえば、愛梨は地球とは異なる世界に飛ばされたのだ。



「もう、これは大根の煮物って言うの。ダルさん何度も間違えるんだから」


「だってよ、凄え言いにくくてよこの…ダイコン、ノ、ニ、ノノ…!」



 どうやらこの世界の人には日本語発音は難しいようだった。

 この国へ来て一番最初に困ると思ったのは言葉だった。

 髪も肌も色素の薄い人々の外見など見ると到底言葉が通じるとは思えなかった、案の定彼らが話した言葉は日本語ではなかったが、愛梨はその言葉を全て理解し、愛梨もその言葉を話した。

 不思議だな、と常々思ってはいるのだが、考えてみても答えは当然でないのでこういうものだと納得していた。



(漫画で読んだトリップ物も、言葉はなぜか通じているものだった気がするしね!)



 愛梨が今まで異世界で生きていられた要因のひとつはこの楽観性で間違いない。



「おい、くれねえのか、そのダイコンの二ノノ…」



 愛梨の持つ器を一心に見ているのはダルガーと言う男だ。

 外見こそ大きく屈強で男臭いダルガーだが、いつもニモノの部分を噛んでしまう。

 日本ではほとんど見かけない熊のような男にはじめは少し恐ろしさも感じていた愛梨だったが、そんな愛嬌ある部分や女性を気遣う優しい物腰も相まって今では雑談もかわす大切な友人であり常連さんだ。


 やり取りの間もダルガーは片時も器から目を離さない。お預けをくらって心なしかへの字眉だ。

 お腹がすいてしかたがない様子に愛梨は思わず吹き出しそうなる。

 そんな気持ちを押しとどめ、ダルガーの前に肉じゃがと大根の煮物の器を置く。

 めしあがれと笑顔で言えば、ありがてえ!の一声と共に勢いよく器へ食らいついた。

 大根の煮物は、まるで飲み物かのようにするするとダルガーの口の中へ消えていく。



(もうちょっと味わって食べて欲しいものだわ……)



 文句の一つも言ってやろうかと愛梨が口を開きかけると、ダルガーは満面の笑顔で「やっぱりアイリちゃんの飯が世界一」なんて小さく呟く。

 その言葉が耳に届いた愛梨の頬には薄くバラが咲いた。何も文句を言えなくなってしまう。



「ラーダにもよく合うんだよなあ、これが」



 ダルガーは机に並べられたラーダという飲み物を一気に喉に流し込む。

 ラーダとは、日本でいう所の第三のビールだ。

 しっかりとした手順で蒸留されたお酒は手間もかかり税が課せられ目が飛び出るほどに高い、中々庶民には手が届かない代物だった。

 そこで考え出されたのがラーダだ。

 ラーダは法の網をかいくぐって作られた人々の知恵のお酒だった。

 作り方も簡単なので、各家庭それぞれが独自のレシピで作っていたりする。



「ねえちゃんニクジャガとラーダ!」



 ダルガーの豪快な食べっぷり飲みっぷりはいつ見ても嬉しいもので、つい眺めてしまっていた。

 一息つく間もなく、注文の声が次々に店に響く。


 ああ今日も忙しい、気が付いたら一日は終わっているだろう。

 額から汗が伝うのがわかる。

 日本にいた頃は何か楽しいことはないか。なんて思いながらただ漠然と時間を潰し過ごしていたというのに、生きるという事はこんなにも苦労をし、そして身震いするほど充実している事を、愛梨は知らなかった。



「はーーい!すぐに!」



 とは言っても勿論愛梨も日本へ帰りたいと思っているし、帰ろうとした。

 しかし帰る術を探そうにもお腹はすき、一年の半分を冬が支配するティスニアでは凍えてしまう。

 ティスニアの事を何も知らないただの小娘は、今を生きるだけで精一杯で、元の世界へ戻る殆どの事を諦めてしまっている。



(それはこの生活も悪くない、なんて思えてきたからだろうけど)



 結婚して子供でもできれば、スコーンと諦められる気がしなくもない。なんて最近は思うようになっていた。



(そんな事考えるあたり、まだ諦められないんだけどね)



 考えても無駄だった、どうせ帰るあてなど何もないのだから。

 愛梨から今日初めての小さなため息が漏れた。


 厨房へ足を向けると、カランと店の入り口のベルが鳴った。

 新しいお客が店へ入ったのだ。

 いらっしゃい!と反射的に入り口へと笑顔を向けると、そこには頭からつま先まですっぽりとローブをまとった、しかしどこか見覚えのある風貌の女が立っていた。




 


 ――あの人は、私をここへ飛ばしたお婆さんだ




一人称書きで進めていくつもりでしたが、言いたい事を半分も書けなくなる病になってしまいました…二話目から慣れた書き方へ戻したので、こちらも書き直しさせていただきました。読んでくださっている方々には、私の力不足で振り回してしまい、本当に申し訳ないです… これからもこりずに楽しんでいただけると嬉しいです。

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