AM 8:00【7階ニテ】
「は?都市伝説?」
「そーなんすよー」
7階のルームに集合がかかったので上へあがってみると、緋和が1人遅めの朝食を取っていた。
日出緋和
ごくごく普通の高校生。
とは少しばかり言い難い。
彼女にべた惚れすぎて若干気持ち悪い。
いや、高校生ってこんなもんなのかな・・・・。
あと、まぁ付け加えるとしたら、霊感少年である。
彼を交えて怖い話なんかすりゃー、最後の方は出るわ出るわ。
現在、半分幽霊のシャイガールと楽しい毎日を過ごしている。
目下の悩みは彼女のその・・・うん。育てているのに、成長しない胸部を
どうしたらいいかという、思春期少年にありがちな悩み。
どうしたらいいかってか。どうにもならない。それはどうにもならない。
男の努力である。と、僕は彼に言っておいた。
「何見てるんですかー。」
「・・・・・なんでもないよ。」
他の皆はもう帰ったのか、来てないのか
淡雪、澪音あたりは集合の手紙さえ見てないと思う。
仕事の依頼が入れば、まず備え付けのポストに手紙が入る。
個人への仕事なら内容が書いてあるが、
誰が行ってもいいという状況なら7階へ集合することになっている。
上がれば、DVD、手紙、CD、パワーポイント・・・
などなど007も笑うような趣向で内容が用意されている。
今回はどうやら封筒のようで、机の上に無造作に置いてあった。
自分の名前が書いてあるものを手にとって緋和の前に座った。
「都市伝説って・・・・口裂け女的な?」
「ですねー。」
「をどうしろって?」
「解決しろって。あ、紅茶無くなってるじゃないですかー・・誰だよ、最後に呑んだやつ」
「そんなん霊媒師呼んだ方が早いだろ。」
「と思うんですけど。」
基本的にルームにある飲み物は最後に飲んだ人が新しいものを用意しておくということになっている。
その紅茶を最後に呑んだのは淡雪だ。
が、彼はどこかしら淡雪に幻想、というか敬愛、というかものすごくリスペクトしてるところがあるのでまぁいいだろう。
緋和は俺と自分の分の紅茶をマグカップに入れて一つを目の前に置いてくれた。
小さく、感謝を告げつつ、封筒を開けると
【まぁ。うん。頑張れ。今回は3カ月分ぐらいかなぁ。俺にもよくわからねぇけど、まぁ頑張れ】
と綺麗とも汚いとも言えない字で綴ってあった。
2回も励まされるような内容なのか。ものすごく気のりしない。
緋和、澪音は学生ということもあり、2人で1人分の家賃を払っていいことになっている。
なので大体、自分たちに余裕がある場合はこいつらに仕事をまわすのは暗黙の了解となりつつあった。
「で。誰が行くんだよ。」
「俺らは2カ月分、先に働いているので別にいいですよ。」
「だけどなぁ・・・こういうのはお前ら、ってかお前担当だろ。」
「ですけど・・・あっ!俺、澪音起こさなくっちゃ☆やっべー!先輩ごめんなさいっ」
とものすごくわざとらしく、ものすごくむかつく態度で星を飛ばしながら彼は出て行った。
この苛々をどこにぶつけようか、と考えてる間に
左手に持っていたマグカップが木っ端みじんに砕け飛んだ。
出て行った緋和と入れ替わりに入ってきた淡雪の顔は顔面蒼白。
こんな表情を浮かべるのは何年振りだろう、と思いつつ土下座する勢いで謝っておいた。
と、言うより土下座した。
+++
「で。なんなの?その噂って。」
淡雪はミルクティーを啜りながら静かに言った。
さっきから若干、目が合わない。
てか目を合わせてくれない。どこか遠くを見つめている。
僕は心が折れそうになりながら、封筒から地図と依頼内容を出して説明する。
「えっと、ビル街に大通りがあるでしょ?」
「六堂通り?」
「うん、あの裏にある小さな路地が現場らしいんだけど・・」
『とくていのじかんに、そのみちをとおると、どうしてもでられないくなるらしいんだって。』
『それで、ふりかえると女の人がいてね、とおりたいの?ってきいてくるんだって。』
『とおりたい、っていったら、でられなくなって、とおりたくないっていったらせなかに激痛がはしるんだって。』
『やっとのおもいでそこをにげだすとね、せなかに何かでつつかれたあとがいっぱい。』
『こわいよね、』
『こわいね。』
くだらない、と笑ってしまえばそれまでだけど
都市伝説。伝えられた、物語。
実際にあると思えば恐ろしい。
実際に、あるからこそ語られる。
とりあえず、3カ月分の家賃代のために
僕らは講義が終わった後出かけることになった。