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転落カタストロフィ  作者: 黒猫
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プロローグ

これが何度目の夏かわからない。

いや、それは人生18年間で何度夏を体験したか、という意味ではなく

この時系列の中で何度目の夏なのか。何度目の光景なのか、という事なんだけど。


とまぁセミが必死に恋人を探して叫んでる中をシリアスというか中二病というかわけわからん状態

で始めてみたけど。大学生にして全力疾走というものが、それも終わりの見えない全力疾走がこんなにも辛いものだとは思わなかった。

目の前を同じく走る女の子は息を切らして今にも足が止まりそうだけど、最早突き動かされるように勝手に足が動いてるらしく、止まるタイミングも失っているようだ。

そういえばこの先に十字路がある。上手く誘い込めればいいんだけど、と思考している間に口は勝手に喋っていた。


「あわゆき!そこ右っ!」

「はぁ?え、っ・・ここっ!?」

「そこ!」


僕らは息を切らしながら街中を走る。

こんな仕事はシャイガール(本日:うさぎ)と狼少年に任せればいいのに。

高校生の方が断然体力はあるだろ!!!

彼女の背中を追って、細い路地に入る。

そのままのスピードでかけぬけようとした瞬間

目の前で、細く頼りない背中が地面にたたきつけられた


「淡雪っ!」


まるで背中に大きなおもりが乗ってるかのように息を詰まらせている。

身動きもできないようだけど、なんとかアスファルトに顔面が直撃するのは何とか避けたようだった。


「心影・・・っ・・・」


何とも苦しそうなので駆け寄って状態を起そうとしたけれど体は動かない。

弱弱しく腕を伸ばしてきたのでその小さな手をつかもうと僕も手を伸ばす

伸ばされた僕の手を通り過ぎて腕をつかまれた。

ものすごい力で

あ、これ折れる。折れるって。痛いって!

「心影、走れ。捕まえられなかったら後でどうなるか・・わかってるでしょうね!!私も後から行くから!」


腕を捕まえた彼女の表情はまるで鬼のようで、般若のようで、ヤンデレのようだった。

いや。実際ヤンデレに遭遇したことはないけれど。

トラウマになります。

やべぇ。冷や汗出てきた。足動かないよ・・・

けれどここでもたもたすると彼女に何をされるかわからない。

棒になりかけた足を奮い立たせて立ち上がり

なんとなく向こうかなー?っていう方向に走り出す。


セミは相変わらず恋人を探して叫び続けている。




僕らがなぜこんな真夏日にアスファルトを蹴って走っているかって言うと、

僕らが住んでいるアパートに原因がある。

僕らの住んでいるアパート?マンション?は学生寮に近い。

個人の部屋はあるし、それぞれ風呂もトイレもキッチンもあるからマンションと言えばマンションだ。

だけど、8階にある4つの部屋にはある男が一人で暮らしている。

女性の出入りが何度か目撃されているけど一人暮らしなのは間違いない。

4つ分の部屋の壁をぶちぬいて、リフォームして8階全体を自分の部屋として使っている管理人。

そして7階にも同じ構造の部屋がある。

そこは「食堂」とか「ルーム」とか人それぞれ勝手に呼んでいるけれど、まぁ勝手に集まって勝手にやってくれ、という部屋らしい。管理人の気まぐれでリフォームされたのでよくわからない。


自分たちの部屋でさえ、一人暮らしの学生には広すぎるくらいのものなので

普通に考えれば、家賃は払えたもんじゃない。

しかし、僕を含めて現在このマンションに住んでいる学生は一度も家賃を払ったことがない。


【管理人の仕事を手伝う】


これが家賃を払わずにおける理由であり

僕が真夏日に走っている理由である。

そして淡雪が息を切らしている理由でもある。


僕らはまだそんなバイトを任されたことはないけれど

今まで住んでいた住人の日記を読んでみると

犯罪あり、ホラーあり、サスペンスあり、迷子捜しあり、迷い猫探しありのなんでもあり!

管理人。

8階のフロア全体をぶち抜いて自宅にした管理人

銀色を光らせていつも笑っている、謎の男

柊京介

未だに一度もあったことがない。


【だけど、その笑顔はイメージ出来る。】

犯罪を犯させたとしても

犯罪を犯したとしても

事件自体をなかった事に出来る


そんな力を持った

そんな権力を持った魔法使いらしい

そんな人なら出来れば会いたくない。

そんな魔法使い、いてたまるか。


日記に彼の事を魔法使いと称した人はどんな気分だったんだろうか。

僕には、残念ながら想像することはできなかった。


さて。ここまでが簡単なエピローグだ。

ここから軽やかに奏でられる物語

僕は、その音楽に背中を押されるように、狭い路地を抜けて

人波を縫って

頭の、記憶の、もっと奥から響くその音のような感覚を頼りに走る。



【背中のリュックには僕によく似た字を書く、あの住人の日記を背負いながら。】


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