今願いが叶うなら〜loveレター〜
「こんにちは。君は誰?」
「…ナナ。お兄ちゃんは何してるの?」
「絵を描いてるんだ」
「きれいなお空の絵」
これが6歳の私と15歳の流星お兄ちゃんとの一生忘れられない出会いだった。
「…っう、うっ…ぅうぐぅ」
「ナナ!」
「ママ!」
「大丈夫なの?痛くない?」
「いたいけど、お姉さんだからだいじょうぶ」
「そう偉いね。それでね、ナナしばらく病院にいなくちゃいけないんだって」
「ぅん。ナナここでけがなおす」
あの時私はバランスを崩して自転車ごと倒れてしまい、右腕と肋骨を折って入院しなければならなかなかった。
入院はなかなか楽しいものだった。
同年代の子供も何人かいて遊び相手に困る事もなかった。
「もーぃいかーい?」
「まぁーだだょ!」
今日はかくれんぼをしている。
ナナはどこに隠れようかキョロキョロするとドアの開いている部屋に入る。
「もーぃいかい?」
「もぉーぃーよー!」
部屋では一人少年が絵を描いていた。
それはとっても綺麗な青い空だった。
少年はナナに気づいて優しく笑いながら声をかける。
「こんにちは。君は誰?」
「…ナナ。お兄ちゃんは何してるの?」
「絵を描いてるんだ」
「きれいなお空の絵」
「ありがとう。僕は『流れ星』って書いて流星」
「りゅーせー、お兄ちゃん」
「…ゃーん!ナナちゃーん!どこー?」
「あっ!かくれんぼのとちゅうだった。」
ナナはドアまで行ってから一度振り返る。
「またきてもいい?」
もう一度振り返る。
「お兄ちゃんこんどナナの絵もかいてくれる?」
「いいよ」
「ありがとう。またあしたね」
「また明日」
トントン
「やぁナナちゃん来てくれたんだね」
「うん。お兄ちゃんとお友達になりたいから」
ナナはモジモジしながら顔を赤らめる。それを見て流星は微笑む。
「僕たちは友達だよ」
「ほんと?」
「絵を描いてあげるって約束しただろ?」
流星が今日も空の絵を描いてる事に気づいた。
「いつもお空の絵かいてるね」
静かに空を見上げる。質問には答えなかった。
「ナナちゃん何して遊ぶ?」
「ぅとねーお外いきたい」
当時6歳の私から流星お兄ちゃんを見てもどこが悪いのか全く分からなかった。
時々何らかの点滴をうってるのは目にしたが、包帯をしている訳でも車椅子でもなかった。外に出る事は少なかったように思う。
「はい、プレゼント」
「わーい!お花のかんむりだぁ。流星お兄ちゃんありがとう」
「また作ってあげるよ」
「ほんと?わーい!ナナうれしい」
「お兄ぃ〜ちゃん」
ぴょこっと、顔を覗かせる。
屈託のない笑顔。ところが流星はベットに寝たまま起きあがろうとはしない。
「ナナちゃん…今日起きあがれそうにないからみんなと遊んできなよ」
「…」
パタパタパタいきなり部屋を出て行ったと思ったら何かを抱えて戻って来た。パタパタパタ
「っはぁ、っはぁ」
「?」
手に持ってきたのは、絵本と可愛らしい花。
「お花」
「ナナちゃん怪我してるんだからあんまり走っちゃダメだよ」
「エヘヘ〜ここみて!」
指さしたのは花びらの先。
そこには小さいテントウ虫と少し大きなテントウ虫の二匹。
「かわいいねぇ〜」
「何で戻って来たの?」
「だってお兄ちゃん一人だとさみしくなっちゃうから」
「…優しいね。ナナちゃんは淋しい?」
「…ぅん。でも、流星お兄ちゃんといっしょだからがんばれるんだ」
声が震えて泣きそうになっていたけれど、流星が優しく頭を撫でる。
「絵本よんであげるね」
楽しい時間だけが流れていく。
「りゅーせーお兄ちゃん!」
ドアから顔を覗かせる。
部屋には先客がいた。
「こんにちは。あなたが『ナナ』ちゃん?」
「…ぁ」
流星を探すようにナナは病室を見回す。
「お兄ちゃんどこ?」
「流星?今来るから、こっちでジュース飲んで待ってよっか」
「…ぅん」
小さく返事をしたが、内心泣きわめきたくてしかたがなかった。
黙って彼女の隣に座ってジュースを飲む。
彼女は笑顔がとても素敵な人だった。
それが余計に泣きたくなった。
しばらくすると流星が点滴をうちながら戻ってきた。ガラガラッ
「実菜子、ナナちゃんも」
「きちゃった。退屈してないかなって思って本持ってきたよ」
「サンキュー」
私だけが入り込めないものを感じた。
「ナナちゃんアメ食べる?」
実菜子お姉ちゃんは悪くない。
頭では分かっていても心の中がギュッーって苦しくなる。だから、素直になれない。
「…ぃらない」
首をめいっぱい振る。
「?」
耐えられなくなって、部屋を飛び出す。
パタパタパタ流星は走って追いかけようとするが苦痛に顔を歪め、胸を押さえる。
「ナナちゃん!…ぅっ」
「流星!大丈夫?」
「ぁあ…はぁ」
パタパタパタその日は自分のベットで泣いた。
涙が止まらなかったから目が取れてしまうんじゃないかと思うほどで、頭が痛くなった。
次の日顔を洗おうと鏡を見ると瞼が重くて、お見舞いにきたママが驚いてた。
さらに次の日も流星お兄ちゃんのとこには行かなかった。
そしたら、夜こっそり流星お兄ちゃんが遊びにきてくれた。
二人で窓の外の夜空をみる。
キラキラしていて、ちっちゃな宝石を散りばめたみたいだった。
「ナナちゃんの夢って何?」
「ぅ〜ん…およめさん、かな」
ナナは少し照れて、顔を赤くした。
「でもね、絵本作る人にもなりたい!」
「絵本?」
「うん!絵かいてて楽しそうだから…流星お兄ちゃんは?」
遠慮がちに流星に目をやると、儚く笑う。
「そうだなぁ…空を飛んでみたいな。気持ちいいだろうから」
ナナは星の煌めきを目に焼き付けながら黙って聞く。
流星の横顔がとても淋しそうでナナはちょっと悲しくなった。
「ナナが流星お兄ちゃんをお空につれてってあげるよ!」
「ありがとう」
やっと笑ってくれた気がした。
「ほんとだよ!風せんを手にいっぱいもってナナと流星お兄ちゃんで風にのるの」
「楽しそうだね」
「うん!ナナとっても楽しみ〜」
「僕も楽しみだよ」
次の日からさっそく私はママにお願いして風船を一袋買ってきてもらった。
「ナナ〜何してるの?ママにも見せて」
「みちゃダメ〜」
流星だけに見せたかったのでママには隠す。
画用紙の上を色鉛筆が滑り次々と円を描く。
色とりどりの風船で空を飛んでいるナナと流星の絵。
「♪」
手には二人で空を飛ぶ絵とカラフルな風船を握り締め流星の病室へと向かう。
パタパタパタ病室前まで行くと看護婦さんや人の往来が激しかった。
だが、ナナは小さかったので間をすり抜けて難なく潜り込めた。
「流星、お兄ちゃん?」
「ナナちゃん、入っちゃダメよ」
看護婦さんがナナを捕まえようと手を伸ばす。
「イーヤァ!お兄ちゃーん!!」
ベットまで行くと流星はナナの声に気づいて目をうっすら開ける。
「…ナナ…ちゃん?」
「ナナここにいるよ!」
椅子によじ登り流星に顔を近づける。
「ごめんね…約束守れ、なかった」
「…っぅうん。ナナね、絵かいてきたの。みて」
「上手だね…ごめんね。僕が先に空を飛んでくるよ」
既に流星の目は閉じていた。それを見て、ナナは首をめいっぱい振る。
「やぁーだやだやだ。いっしょにってやくそくしたんだもんっ」
「ごめんね」
「お兄ちゃんのうそつき!!」
「…ナナちゃんは…じ…自分の夢を、叶えて…」
一筋の涙が頬を伝い流れる。
ピィーーーーッ走った。ひたすら走った。息ができなくなるくらい。
「ふっー…う゛っぐっう…ん゛ー」
「みぃーつけた」
実菜子がナナの後を追いかけてきてくれた。
「手出して」
小さな両手を出すとカラフルな風船を渡す。
「風船をたどったらナナちゃんを見つけちゃった。大切なものなんでしょ?」
「流星の夢はね…絵本を作って子供たちに読んでもらう事だったの」
「ナナと同じ」
「そうだね。流星は自分みたいな病気してる子供たちを元気づけるような絵本作るんだって…言ってた」
実菜子も泣いた。
励ますようにナナは風船を膨らませ始めた。それを見て、実菜子も同じようにした。
「ナナ夢かなえる…流星お兄ちゃんのぶんまで」
ナナの夢を乗せた風船は空高くどこまでもどこまでも飛んでいく。
空にいる流星に届くくらいに。
〜13年後〜『翼をください』という病気を抱えた少年と少女が風船で世界中を旅する絵本が出版された。
表紙は青い空。
最後にはこう書かれている。
『世界中の子供たちへあきらめず願い続ければいつかは夢が叶う』そして、もう一つ。
『貴方は流れ星になったけれど、ずっと忘れない。
貴方と過ごした日、触れた手の温もり、内緒話をした日の夜空。
私は貴方が大好きだったから』幼い頃の恋と呼べるか分からない恋への、これが…最初で最後の…ラブレター
*花のように〜*に続きもどかしい恋心を描いてみました。感想などいただいたらすっごく嬉しいです。