ラブテキなもの 2
続き。
佐々倉くんは、昨日の私に全く気付いていないようであった。これ幸いと思うべきか、気付いていたとしたら確実に気まずい。まず間違いなく声をかけられることはないくせして、意識だけはめちゃくちゃされるという落ちになってしまうところだった。危ないところだ。
佐々倉くんは基本的にいい人だけれども、しかしぼんやりとクラスメイトの一員としてしか見ていかなった私なりの佐々倉くん像などあてなにならない。実際どんな人なのか分かったもんではないのだ。気付いていて私のことを男友達と話しているなんて考えるだけで嫌過ぎる・・・という考えを巡らせたおかげで一日中佐々倉くんをチラチラ見つつの学校生活を終えた私が得た結論である。
佐々倉くんはいつも通りであり、また妙に私のことを気にしていた感はあるがそれはただ単に私がチラチラ見すぎだったせいに違いない。あちらを見ていたタイミングで明らかに私を気にしていた。何かもう私が阿呆過ぎる。どれだけ転倒本末だ。
佐々倉くんは、背が170センチメートルくらい、顔そこそこよし、男子テニス部所属、現在彼女なしの男子である。男友達は大体が男子テニス部。現在彼女なしとの情報は、私が何となく見ていて目星をつけただけの話なので確証はできない。しかし、いなさそう。童貞だろたぶん!
・・・まぁ何となく私の希望である。佐々倉くんは、前から何となく『いいな』と思っていた男子で・・・いや、まぁ何となくな話であり、というか顔そこそこよしと言っておきながらではあるけれども彼女がいなさそうからしてあまりモテてはいないらしいし、いいのかどうかさえわからない。ただ格好いいというよりは、私が見るからに特出して嫌な部分、たとえば鼻がでかすぎるだのそこの黒子が嫌だのにきび出来過ぎだの顔荒れ過ぎだのとそういった私が三次元の男子を見る上、接する上で気になってしまうどうしようもない細かい箇所なんかがなく、私的にいってしまえばバランスも取れていて飽きない顔立ち・・・というか。うー、む。何というか、そこまで言っておきながら今更なんだけれど、私気持ち悪いな・・・。何を考えているのだろう。佐々倉くんはいちクラスメイトであり、その佐々倉くんについてここで話しているはずではなかったのか。なんだ、彼女がいないとかいるとか。関係ないだろうがそんなことは。考えてみれば単にツタヤで佐々倉くんを見かけてしまったというだけであって、何をそこまで彼を意識しているんだ私は。きっも!クソ、なんだこの感じ・・・。超きもいわ!何かヒク!
頭の中で思考をぐるぐるとさせていながら、放課後の帰り道、何故か私はツタヤへと向かって自転車を走らせていた。昨日のようなイベントを内心期待してるとかマジきもいが、しかし『そうさ私はきもいさ、フェッフェッッッー!!!!』と今や開き直りの精神である。心臓がバクバクだ。普通学校帰りになど肩にかける学生カバンが重いわ持つの鬱陶しいわでどこにも寄らずにさっさと家路につくというのが私のセオリーであるが、しかし家に帰ったら帰ったで再び着替えて自転車に乗ってお出かけとかおそらく私の面倒臭がりぶりが発揮されて実現など不可能だろうし、かと言って週末までこんなドキドキを放ってなどおけない。佐々倉くんが再びツタヤに二日連続で現れるという可能性はおそらく圧倒的に低いため、期待すんな期待すんなと心の中でひたすら予防線を張る。期待すんな期待すんな、ドキドキすんな!何だもう!私こんな自制心低かったか!?ドキドキすんなってもう、鼓動激しくなんなってクソ!!
あぁそうさ、私は単純過ぎる。私は恋愛偏差値が低過ぎる。高校二年生で、男の経験はなし。手を繋いでデートをしてもらったことも、抱きしめてもらったことも、キスしてもらったことも、もちろんそれ以上の経験だってしてもらったことはない。もうダメだ、私は恥ずかしさで死にそうだ。十八禁のコーナーへと入っていく佐々倉くんを見て彼の特別な秘密でも握ったつもりか、大げさな。そんな秘密知ってどうするつもりだ、佐々倉くんと親しくなれるか?どうやってなれるんだよ、どうやってなるんだよ。どうせ自分じゃ近付けやしない。いつでも私は受身にしかなれなくて、だから彼氏だってできなかった。男子と親しくなることすらできなかった。っは、だって私、軽く話しかけられただけでその人の好感度上がっちゃうんだぜ、その人がどれだけヤリチンなのかとかヤンキーなのかとか知ってても、それでも私に普通に接してくれたっていうのが嬉しくて、女子扱いされたと勘違いしちゃって、舞い上がっちゃうんだぜ。バカらしー。どんだけ幼いんだ私。どんだけ男に飢えてんだ。盛ってんじゃねぇよ。
ツタヤの扉をくぐると、そこは本屋さんである。ここの店は二階構造となっており、一階は本屋さん、二階にDVDやらCDのレンタルが可能なツタヤがあるのだ。
本屋さんは後回りにするとして、自動扉を抜けてすぐの右側にある階段を上っていく。片方の肩だけにかけた青くて重い学生カバンのおかげで、私は重心が定まっていない。フラフラとした足取りで、おそらく片方の肩を下がらせているだろう体勢のまま私は階段を上がる。
佐々倉くんの姿が、脳裏に浮かんだ。
割と好きな顔、細過ぎず、大き過ぎず、しかしガッチリしているところはガッチリしているその身体。笑う、笑っている。あの人はよく笑う。面白そうに、嬉しそうに、楽しそうに、笑う。
あぁ・・・やばい。早く終わらねぇかな、このドキドキ。どうせいつもの男子気にしすぎ惚れ過ぎ注意症候群だ。一旦接触してしまうと、もう駄目なんだからなぁ・・・。あーあ、くそぉ・・・。ほれほれ、痛い目見るぞ。どうせあっちは私のことなど毛ほども異性の対象として見ていないからな。期待すんなマジで。
「中村さん」
名前を、呼ばれた気がした。しかし、勘違いしてはいけない。中村なんて名字はざらにいるもんである。というか明らかに男の声だった。私にこんなところで声を、しかも名字で呼びかけるような男は存在していない。誰だそいつは。私の妄想の化身かこら。
こんな広い店内の中、さほど近くもない場所から私の名字が呼ばれたような気がしたって別に過剰反応してしまう自分ではないのだ。中村って多いから。同じクラスにも一人いるから。学年で数えても、確か三人ぐらいいる。友達少ない・・・というかまぁほとんど皆無に等しい私からして名前を呼ばれたような気がして反応するとそれは私ではなかったパターンなどこれまで何度経験してきたか!もう慣れ過ぎて名字呼ばれても他人呼ばれてるみたいな感じだわ!何度かそれで呼びかけられたのに無視っちゃったことあったよ!!!失礼だわくそ、あぁ・・・また自己嫌悪の渦に・・・。
「ちょっと待って」
後ろからそう言って、階段を駆け上がる音がする。
え・・・ちょっと待って・・・これはマジで私では・・・ギャァァァアアアアアアアアア!!!!
警報警報!!胸の鼓動がバクバクである。漫画であるなら私真っ赤である。実際めっちゃ火照って熱いんだけどどうしようこれ。
ガクガクで振り向いた。
「中村さん」
佐々倉くんだ。私は機能停止となった。
容量オーバーである。
コレハ ワタシニ オエル イベント デハナイ。
・・・文がもう支離滅裂すぎるような気がしてならないが、まぁいいや。