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シテキなもの  作者: 滑瓢
15/15

イヨクテキナもの

『そもそも何で俺のこと好きになったの?』

『分からないか』

『そうだね、あんまり分かんない』

『まぁそうだよね』

 

 ・・・私は。

 頑張るって決めた。何にしたって、頑張らなきゃ始まらない。

 努力した。可愛くなるように。

 あの人に好かれたかった。どうしても話しかけられずに、でもずっと見ていた。

 気になっていた。

 一年が経った。相変わらず大好きだった。

 勇気振り絞って。

 私は、とても頑張った。

 ・・・うん。フラれちゃったけど。

 でもやっぱり好きだった。

 だからもっと頑張ろうと決めた。


 そもそもの出会いは、入学式。

 ちょっとカッコイイな、と思っていて、やがてそれは本格的に恋となった。

 ・・・当たり前だろうか。普通過ぎる?

 でも、私はどうしようもなく明良くんが特別なのだ。

 好きになってしまうと、その人の何でもかんでも気に入ってしまう。

 あの人の笑顔も、声も、制服姿も、体操服も、その後姿、体格、手や足や髪の毛も。

 私はいつでも恋していた。

 明良くんは優しかった。爽やかだった。

 こんなことを言ってしまうとまるで少女漫画にでも出てきそうな人だけれど、けれどやっぱりあの人はちゃんとした三次元で、しっかりと存在している普通の人類の男だった。爽やかなんてものは、言ってみればこの年頃の男の子に見られる泥臭さというか汗臭さというか、思春期特有の粘っこい性への意識、上品ではない素行や笑い方・・・そんなものが感じられないだけサラサラと随分さっぱりと見えるというだけの話である。

 明良くん以外の男子が皆そうというわけではないのだけれど、しかし断トツで容姿が好みであるためにそれらの優しさは爽やかさは相乗効果で余計にどの人よりも素晴らしく見えた。

 あの日。

 告白しようと意を決していたあの日の明良くんを、私は見たことが無かった。

 大事な人がいる表情をしていた。その目は目の前のものでなく、この場にいない誰かを見ていた。その口調は何だか親バカな人が子供を自慢するように得意げで、しかし妙に照れくささも隠していた。

 ヤキトリを、買ってやると。まぁそれだけのことしか話してはいないのだけれど。

 それでも十分に物語っていた。

『あの人は、大抵何か食べるものあげると喜ぶから』

 ・・・私は既に意を決していたというのに。

 私はやっぱり、どうしようもなく。

 頑張りたくて。

 はちきれんばかりの想いはとにかく必死だった。


 屋上は風が吹いて寒かったけれど、ここがやはり一番良かった。風が吹いてスカートをひらめかせるのを手でやんわり抑えながら、私は一人明良くんを待つ。

 昼休みにしろ放課後にしろ、ここは何時だって空いていた。何しろ屋上は座るところがない。下は掃除していない分どこもかしこも外の汚さに満ちていた。


 ・・・もうすぐ、来るはず。 


 一週間に二回か三回。

 今では明良くんと程度を決めて話すようになった。それだけでも十分成果で、成長だ。私はそれだけでも既に相当の嬉しさを得ていた。

 やがて屋上への入り口は開かれる。

 明良くんが私を見た。

 どきどきする。

「やっぱいるよね」

 そう言って、人受けの良い笑顔を見せる。

「いるよ。当たり前じゃん」

「・・・いや、俺桜井さんより先に来たことないからさぁ」

 明良くんはそう言いながら、私の方へと近づく。

 心臓の鼓動が激しくなった。







 やっぱり、好きだ。

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