シンピテキなもの 3
そもそもその女の子になぜ告白されたのか、僕にはそれが分からないままでいた。
コンビニへ寄ろうとする道、伊呂波の喜ぶ顔を思い浮かべながらも歩いていたところ同じクラスの女の子に声をかけられた。別に嫌悪感する相手ではなかったので、道中一緒のところまで何となく話すこととなる。顔だってそんな悪くない、女の子らしい女の子だ。ギャルッ気もない、素朴によく笑う女の子だった。彼氏が一人二人いたという過去を晒されたって、別に驚きやしない。きっとこれまでだって青春を謳歌してきて、これからだって出来るに違いない女の子。
「あんま話したことないよね、私ら」
そう言って笑っていたが、今思えばそうやって笑っていたのは僕と並んで話せて嬉しかったからなのかもしれない。
確かに、あまり親しく話したことなどなかった。話したと言っても、おそらく二言三言程度のものだろう。あまり覚えてはいないが、しかし同じクラスで一度も言葉を交わしていないということはなかったはずだ。
それ故の、疑問。
この子はどうして僕を好きになった・・・?
女の子はコンビニまで一緒に来た。自分にも買いたいものがあるとか言っていたが、それも果たして口実なのか本当なのか今となっては分からない。とりあえずそのときの僕は、その子の言っていたことをそのまま言葉どうりに受け取って、買い物をその子と共に済ませた。
僕に記憶力に寄れば、ほんのそれだけのこと。
それだけのことしか、していない。
それはほんの10分か20分程度のことだった。
それなのに、女の子は僕に言った。
僕のことが好きなのだと、そして付き合いたいとも、・・・ずっと前から想いを寄せていたとも。
一生懸命その子は色々なことを喋っていたが、もうほとんど覚えていない。僕は僕で事態を飲み込むことに一生懸命だった。頭は真っ白で、何も気の利いたことが言えなくて、とりあえずこの子が僕のことを好いてくれているという点において認識しようと必死になっていた。
コンビニを出てすぐの駐車場の傍には幸い人はおらず、僕とその子は二人で淡い青春ごっこみたいなものを繰り広げていた。
「あぁー・・・」
その子が真摯な目をして僕の返事を待ち受けていて、それに僕は今すぐ答えなければいけないような気がした。返事を待たせることは、無駄に期待を持たせるような気がしてならなかった。僕の答えははっきりと一つしかなくて、悩む必要などなかったのに言い様がどうにも見つからなくて悩んでいた。
「・・・ごめん」
結局それだけしか言えなかった。
女の子は目をそらして、「分かった」と言った。女の子もそれだけしか言わなかった。
「じゃあ、バイバイ」
僕の顔など、もう見なかった。何となくだけど、いっぱいいっぱいなんだと思った。そうして去ってしまった女の子が、僕には好ましかった。あの子はたぶん、笑いたいときにしか笑えない子なのだ。
僕には分からなかった。分かろうとする余裕もなくて、彼女が一生懸命僕のことをどれだけ好きなのか語っていることのほとんどを聞き流してしまったことを申し訳なく思った。
「・・・」
立ち尽くして一人になった僕は、伊呂波のことを唐突に思い出した。
ヤキトリの存在を感じた。
「・・・しょうがないよなぁ」
だから言い訳みたいに、つぶやいてしまった。
「僕にだって、好きな人はいる」
もちろん僕がそうつぶやいたことは、伊呂波には内緒だった。伊呂波はただ僕の話をフンフンと興味津々な風に注意深く聞いて、満足げにこう言う。
「君は案外、モテるんだよ。君が知らないだけでね」
妙に自信タップリだった。
そうか?と僕が言うと、「あぁ!?何だこのモテ男くんがぁ!?調子乗るなよなぁ!!」と妙なやつあたりをされた。ふぎゃあ、と伊呂波が僕のおにぎりをついでとばかりに取ろうと襲い掛かってきたので、僕は伊呂波の頭をおにぎりを持っていない方の片手で抑えて応戦する。「うわぁん、くれよこのやろぉ」と伊呂波が僕の視界の中で暴れる。まぁ、暴れると言っても形だけだ。伊呂波はこういうじゃれあいを好む。重々承知していたことだった。
「君はカッコイイんだよ。癪だけどね」
ヤキトリをいつの間にか食べ終えたらしい伊呂波は、ヤキトリの串と袋をゴミ箱に捨てようと僕から離れて僕の顔を見ないままそう言った。
伊呂波にカッコイイと言われて、僕は嬉しくなる。
・・・まぁこれも、私の妄想ですよ。
あははー