第一章 〜意地悪と悪戯〜 3
第一章 〜意地悪の悪戯〜 3
その日は、特に天気が良い訳でもなかった。夜が明けようという時刻でもあった。そんな環境だったから、少年達はその誘いに乗ってしまったのかもしれない。
「……本当に、いいのか?」
少年達は、男に尋ねる。
男は仮面で顔を隠し、その姿もはっきりとしてはいない。だが、言動には重みがある。
「ああ、勿論だ。君たちは何も悪くない。悪いのは、全て私だ」
少年達は男を怪しむように顔を見合わせる。そして、男の顔を伺うようにして言った。
「……………だが、強盗だぞ?」
「心配するな。全ての責任は私が持とう。君たちの事は解っているつもりだ」
「……………本当、なんだな?」
男はふっと笑い、手を差し出す。
「勿論だ。信じる者を救おう。——いや、信じぬ者も救おう」
少年達、巷を騒がせる強盗の犯人達は、男に手を差し出した。
そして男は少年達に札束を渡した。諭吉が百枚で束ねられていた。
それから数刻後、とある小さなビルで。
男の元に一人の女が現れた。女はスーツ姿で、無愛想に目を伏せている。だが少なからず、男に敬意をこめているのが伺えた。
そのビルの一室で、男は傷一つないガラスのデスクに肘をつきながら、その前に立つ女の話を聞いていた。
「ご苦労様です。あなたはやはり、人を引きつける何かを持っていらっしゃる」
「そうか? ……それはそれであまり嬉しくないな」
「……どういう事ですか?」
「何、君には解らないだろう。とにかく、強盗の件だが、ここまでは君との計画通りだ」
「はい。ですから、こうしてお礼に」
「いや、お礼などいらないよ。例え君に頼まれずとも、私は自分でやっていた事だ」
「……そうなのですか?」
女が尋ねるのに頷き、男は言う。
「現状に満足できるのは、恐らく保って数年だろう。白雪お嬢様の年齢を考えれば、それは早すぎる限界だ。まあ、今のような状況ではしょうがない」
「……あなたは、白雪家が怖くはないのですか?」
「怖い? 白雪家が?」
「はい。……少なくとも、私と同じ考えを持つ者があなたの他にもいました。しかし皆、白雪家の飼っている『悪魔』の話をすれば、無かったことにしてほしいと、そういって逃げました」
「……なるほど」
「ですから、あなたは白雪家が怖くはないのですか? また、その理由は?」
男は不敵に笑い、そして答えた。
「『悪魔』? そんなもの、人間に比べれば可愛いモノだよ。人間の方がよっぽどおぞましい」
「…………」
「『悪魔』を畏れていては、国は良くならない。だから私が引導を渡そう。『悪魔』を殺し、白雪姫を追放し、この国の礎を築こう。犠牲は付き物だがな」