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僕は怪獣

作者: 溶ける男
掲載日:2026/06/28

目は覚めたはずだった。

確かにそんな感覚があったが、眼下に見えるビル群がまだ夢の中なのだと告げているようだった。

ビルの中では逃げ惑う人や、僕を見て悲鳴を上げて動けなくなる人。

その時、窓ガラスに僕が映った。

…怪獣だ

背中を丸めて小首をかしげてビルをのぞき込む怪獣と目が合った。

びっくりして自分の手を見てしまった。

ゴツゴツした爬虫類のような手のひら越しに見えた地面に、自身の目線の位置を思い出してしまった。

僕は高所恐怖症なんだ。

そう気がついた瞬間、足がガクガクと震えだし力が入らなくなって、尻もちをついた拍子にビルにぶつかってしまった。

しまった!

世界がスローモーションになる。

慌てて倒れたビルに手を伸ばしたが倒壊を防ぐことはできず、振り向いた際に尻尾が周囲のクルマを薙ぎ払い、ビルの根本に痛恨の一撃を与える。

気がついた時には、辺り一面に炎が上がり、屋上で助けを求める人々。

助けようと近づけば、逃げ惑い、屋上から溢れ命がこぼれる。

絶望の咆哮が、天を焼き貫く。

咆哮とともに放たれた熱線に更に絶望する。

もう何もしないほうがいい。

救助の邪魔をしないように身を低く丸め、そのまま炎に巻かれても構わない、そんな思いで動きを止める。

どれくらいの時間が経ったのだろうか、あたりから人の気配が消えた。

救助が終わったのかと安堵したのも束の間、視界の端に戦闘機が映った。

そうか、僕を殺してくれるのか。

高速で近寄り放たれたミサイル。

ドンと胸に命中し激痛が走る。

思わず咆哮を上げそうになり、慌てて口を手で押さえて熱線を噛み殺す。

しっかり漏れ出さないように押さえつけて次の攻撃を待つ。

徐々に手足の感覚も痛みも感じなくなり、ようやく死ねると安堵する。

僕は、深く目を閉じた。


目が覚めると、再び眼下にはビル群があった。

先程までの地獄が嘘のように消え、最初に巻き戻っていた。

今度は間違えない。

そう決意し、片手で尻尾を掴み、ゆっくり下を見ながら車や人を避けて海を目指す。

誰も傷つけず何も壊さないように、そろりそろりと細心の注意を払い歩みを進める。

遂に浜辺へ到着するが、そこには待ち受けるように防衛線が引かれていた。

進路からバレていたのは分かっていた。

出来るだけ被害がないように川を下っていたから、その先で待ち受けているのも当然だ。

ゆっくりと砂浜に向かって歩く。

刺激しないように慎重に、ようやく砂浜に到着する。

人差し指?を使って文字を書く。


ボクは悪い怪獣じゃないよ


怪獣が文字を書いた、それも"日本語を"だ。

それが何を意味するのか。

巨大な生物兵器を現実で手に入れた日本という国。

侵略の意思があるかないかではなく、かの国の特撮文化から生まれ世界で知られる最凶を彷彿とさせるその姿が、どんな影響を与えるかなんて、その時の僕は考えもしなかった。

一先ずは隔離され、専門家による聞き取りや細胞採取なんかが行われたが、僕自身何も分かっていないと言うことが分かっただけだった。

多分元日本人で、高所恐怖症だった事だけは覚えているが、それ以外は名前なんかは分からない。

行方不明の人物も残念ながら数多いるため、特定することはできなかった。

細胞からも人のDNAは検出されなかった為、人体改造の線は消えた。

ではなぜ、僕は存在するのか?

そんな自問に答えを出す暇もないくらいに目まぐるしく日々は過ぎ去り、総理や他国の大統領とも会ったり式典に出たりと、様々なミッションを無事クリアすることで、限定的ながら自由な行動も許されるようになった。

自由と言っても、指定された地域を許可なく出ることは許されない。

僕専用の国立公園のようなものが出来て、そこでの生活を見せ物にすることで食費の足しにでも、といった感じらしい。

まぁこの身体がどんなエネルギーで動いているのかは分からないが、恐ろしく燃費がよく、ほとんどお腹は空かない。

たまにジャンクフードが無性に食べたくなるくらいだ。

来園者の向けるスマホにポーズを決めてファンサービスしてみたり、届いたファンレターやエゴサを読んだりしながら、本当にこのままでいいのかと答えのない問いを続けていた。


穏やかな日々は唐突に終わりを迎えた。

怪獣排除派のデモ行進が公園内で起きている。

本来は入場できないはずの彼らを手引きしたのは誰だろうか?

入場口の警備の人は無事だろうか?

先導しているのは、どう見ても日本人ではないアジア人だ。

まぁ言いたいことはわからんでもないが、その主張に矛盾が並んでいることがわかっているのだろうか?

僕が大人しくしているからこんなデモ行進がここで行えていることを、それともここで死ぬ覚悟を持って行っているのか?

死して危険性を世に知らしめて日本から排除しようと言うなら、その覚悟を鼻で笑ってやろうか。お前らの相手なんかしてやるほど暇じゃないんだよ。

本当は暇だけど…無視してアニメでも見よ。

ばつん!

アニメの良いところで、施設の電源が落ちた。

そこまでやるのか、お前ら!

そう思ってデモ隊に振り向くと、彼らも混乱していた。

そこからは、悪夢のような時間だった。

デモ隊に襲いかかったのは黒い服を纏った特殊部隊。

火炎放射器でデモ隊に火を放ち、悲鳴が辺り一面を埋め尽くし、瞬く間に炎に飲まれて倒れていく人々。

彼らは捨て駒だったのだ。

僕を排除する為に自国民すらゴミのように燃やすことの出来る国。

証拠を残さないように、そして罪を擦り付けるために用意された武器。

そこまでして敵対したいのか?

矛盾する行動原理が理解できない。

僕はもう彼らを助けることも排除する事もなく、ただ見ることしかできなかった。

デモ隊の殺害から世論は怪獣排除に傾くかと思われたが、そうはならなかった。

そもそも、今回の行動が自作自演であることくらい、その国の普段の行いを見ていれば分かるという残念なものであり、さらに使われた火炎放射器の温度が足りなかった。

僕が軽く火を吹けば骨も灰も残さず一瞬で蒸発させられる事は、既に友好の国や国民には共有済であり、それを知らない国の謀略であることは明白であった。

その事を大々的に発表し、信用も何もかも失ったその国は、暴走し最悪で馬鹿な選択をした。

核兵器の投入である。

流石に見逃すことができず、迎撃のための熱線を放った。

核兵器は発射とともに破壊され、基地は吹き飛び多くの被害が出たが、幸い反応前の為、放射能汚染は最小限に留められた。


力を使ってしまった。

それは、この平穏との別れを意味していた。

強すぎる力はいつかこの国も歪めてしまうかもしれない。

僕は決意した。

もう誰にも干渉できない場所で生きていくと。

地面に、


ケンカをしたらリョウセイバイだぞ!


と大きく書いて公園を後にする。

深海で暮らそう。

人の手の届かない深海で、平和を祈りながら。


僕は怪獣。

悪い怪獣じゃないよ。

だから、悪い怪獣にしないでね。

お読みいただきありがとうございました。

怪獣を題材に思いついたので描いてみました。

転生ものっぽい書き出しですが、その辺の設定はあまり考えず勢いで描いてしまってます。


楽しんでいただけていたら幸いです。


この小説の主題歌を作ってみました。

作詞は私が、曲や歌唱はAIにてよかったらお聞きください。

ランキングタグにリンクを張っています。

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YouTubeにて主題歌配信中 「ぼくはかいじゅう」
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