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転生屋さん 続続

作者: 佐佐木誉
掲載日:2026/05/25



 俺はガキを部屋の中に押し入れると、キッチンに向かう。

 窓を見やると、外はすっかり暗い。ベランダの向こうでは、遠くの街の明かりが煌めいてる。


そういえば、1000年ぶりに現世に来て感動したことが一つある。

いつでも、誰でも。うまい飯や酒が飲める。

しかも、いつでも。それが手に入る。

飢饉や疫病が流行っていたあの頃とは大違いだ。

その点、この時代は悪くないと思ってる。


俺は冷蔵庫を開けて、冷えた缶ビールを取り出す。

こんな飲み物はなかったからな。

「おい。お前なんかいるか?」

「カルピス」

「悪いがカルピスはねえんだ」

「じゃあ、オレンジジュース」

「あいよ」

 俺は缶を二つ、ソファでくつろぎやがる相棒のところへ持っていく。

 太々しい、野郎だ。

「おじさん、これは何?」

「本だ」

「すごい数」

 ガキが示したのは、堆く積まれた本の山だ。

 このアパートの一室のリビングの、ほぼ半分を占拠している本の山。

「まあ、俺たちの仕事の証だ」

「仕事の?」

「ああ。転生したやつが異世界で始めた人生は、この世界で物語となって本になるんだ」

「へー。じゃあこの分厚い本たちは、」

「おう。俺、いや一部は俺たちが送り届けた奴らのその後の人生だ。

ちゃんと無事に過ごしているかは確認したくてな。

こうやって仕事終わりにのんびり読んでるんだ」

 うっかり。自分を語る口が饒舌になる。

「じゃあ、こっちの薄い本は?」

「それは…竿役者の領分だ。お前はまだ見るな」

「ケチ」

「大人になったらな」

 一度だけヤツに読ませてもらったことがあるが、なんだか胃もたれがしてきたので途中で見るのをやめた。ほら、なんか闇というか病みというか、そんな感じだったから。

「そういえば…お父さんの本もあるの?」

「お父さん?ああ。『望まない子供を育てさせられていた俺は、養育スキルで無双する』だったか。まだこの山には来てないが…そろそろ本になってるかもな」

 なおコイツの父親、『育て』の父親は、俺が異世界に送り届けた。その折にこのガキと出会ったってわけだ。

 缶ビール片手に、郵便受けを確認しに行く。神とやらが、ご丁寧に転生させた者たちの物語を送ってくれるおかげで、暇つぶしには事欠かない。

「ほら、来てるぞ、お前の父親の本」

「お父さん…!」

 本を小僧に渡してやる。

 さて。俺は読みかけを読むかな。

『ショタコンの私が異世界でおぼっちゃまの世話をしていたら、王侯貴族に求婚された件』。

 これ、『私』が求婚されたのが実は陰謀で、命がけでおぼっちゃまを救い、王侯貴族の罪を明らかにしたんだよな。そこから『私』はおぼっちゃまの許嫁となり、幸せに暮らしましたとさ…となる、予定だ。ある程度本を読むと、先の展開がなんとなくわかる。

 さてさて、コイツはどう幸せになっていくのか。

「おじさん」

「なんだ、今いいとこなんだ」

「漢字が多くて読めない」

「あん?」

「読んで」

「いやだ」

「どうして」

「俺はこの本を読むのに夢中なんだ」

「じゃあそれ読み終わったら読んで」

「ダメだ。次は『モンスターファームで嫁をもらう〜異世界牧場物語〜』を読むんだ」

「やだ。こっち読んで欲しい」

「ダメだ」

「うー。読んで!読んで!」

 ガキがダダをこね始めた。めんどくせぇ。

「じゃあこうしよう。俺が読んでる本に続きがあればお前の勝ち。続きがなくこれで終わりなら俺の勝ち。どうだ?」

「わかった」

「よし、契約成立だな」

 ここまで大団円が確定されてる作品も珍しい。哀れガキよ。大人の知恵に酔いな。

「さーて…何々…」

「…」

「何?婚約の場で隣国の王子が意義申し立て?」

「。」

「何?異世界からはるばる『私』を追いかけて来た?」

「!」

「次回、『異世界からの元カレが、隣国の王子として求婚して来た件』???」

「。」

 ちょっと待て。これ『私』が幸せになって終わる話だろ!?

 これ作者はどんな気持ちで書いてんだ??

「私筆者は私事ながら、作家仲間の方と結婚することと相成りました」

 そうかい。おめでとう。

「『つきましては今後この作品は、夫の過去作品も踏まえて創作していく所存です』…」

 うん?

「『その夫の作品は、webではご存知のお方もござりましょうが』」

「『ヒーローオタクの俺は、異世界ギルドを戦隊知識で成り上がる』…」

 これ、今日のターゲットじゃねえか!!!

「…」

「どう?」

「わかったよ。俺の負けだ。読んでやるよ、お前の父親の本を」

「やった」

「でもどうしてわかったんだ?」

「今日のターゲットの依頼。時間指定があったから」

「あん?」

「この日以降に転生させてくださいって。おじさん気づいてなかったの?時間指定モノは他のターゲットと相関が強いんだよ」

「…マジかよ」

 俺は呆気に取られた。師匠越えとか館越えってこういう気持ちなのか。あのしょーもないガキが、俺の先を行っていたなんて。

「さあ。読んで」

「わかったよ」

 俺は酒のつまみに紫炎を燻らせながら、ガキの父親、育ての親、ガキが好きだった父親の本を読む。

 その時だった。

 次のターゲットを知らせる通知が、俺のスマホに来ていたのは。

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