求道者
しかし、その行為は部署の扉が開かれたことで中断される。
「あ、お疲れさんです〜。」
この男とシュウジは何度か会ったことがあり仕事上でのやり取りは頻繁にしている。
年齢的には中年の域を当に過ぎているがその不健康そうな見た目と若く見えるような風貌で苦学生と言われても信じたろう。
「あれ?中島さんならいないっすよ。生垣さんくるとか言ってたかな?」
生垣と呼ばれた男は一応七三に分けてはいるがどこか無造作な雰囲気が拭えない髪をいじりながら首を振る。
「いや、連絡してないです。あと、中島さんには用ないんで。」
一度しかまともに会ったことはないがその時から印象は変わらない。
コミュニケーション下手くそ男。
この調子だと仲間からも反感を買うだろうとどうでもいいことを考えながら笑顔を作る。
「ん?じゃあ、僕ですか?なんかやらかしました?」
それを聞いた生垣はまた首を振る。
「いや、どちらかというと感謝したいんです。あなたが一番まともに仕事してる。」
「は?ありがとうございます?」
生垣がいうにはゾンビの尋問に意味がないとして定型文をただぶつけるだけの職員が多いらしい。
「そんな中でシュウジさんは素晴らしい。俺がメールで口下手ながらこうして欲しいって頼むと俺の想像以上の手段で情報をくれる。」
「でも、ゾンビたちはなんの反応も…。」
シュウジが話している途中で生垣は口元に人差し指を立てる。
腹が立つ仕草だが静かにと言いたいようだ。
「違うんですよ。明らかにあなたの担当してるゾンビたちは脳波が揺れるんです!」
「脳波なんて測ってたんですか?」
「もちろん!数が多いだけに簡易的なデバイスを付けてるだけに過ぎないですが…あなたの相手への深層心理の探り方!痺れますねぇ!ゾンビもビンビン脳から電気を垂れ流してますよ!」
興奮する生垣にドン引きしながらシュウジは愛想笑いをする。
その後も滔々と溢れ出る水のように生垣の讃美の言葉は止まらない。
褒められているはずなのに一つも嬉しくないのはなぜだろうと考え生垣の言葉は全く入ってこない。
シュウジは立ち上がると生垣に一度落ち着いてもらうためにインスタントコーヒーを入れてやる。
「あ、すいません。ありがとうございます。うん、インスタントでいいんです。俺はこれ好きですよ。」
興奮し過ぎてよくわからないことを言っていることを自覚し始めたのか高揚していた顔がまた不健康な色に戻る。
「まあ、要するに君には感謝してもしきれない。これで前に進めるかもしれない。引き続きよろしくお願いします。あ、もちろん何かお気づきのことがあればそちらからも意見をいただけると幸いです。現場の意見ってのは本当バカにできないですから。あ、そういえば…」
休み時間のほとんどを生垣に持って行かれたシュウジの顔は少し引き攣りかけていた。
そこに助け舟が如くまた扉が開かれる。
「あれ?生垣さんじゃん〜。何してるの?」
「あ、いやいや。シュウジさんに仕事の出来についての感謝を…」
「あれ?俺は?俺も一応ログ取ったり身内のデータ漁ったりしてんだけど。」
生垣は中島のことが苦手なようで先ほどまでの饒舌がまるで嘘のようにしどろもどろになり目も合わせれないでいた。
「あ!休み時間が終わりますね。では!シュウジさん!これからもよろしくお願いします!中島さんも頑張ってください!失礼!」
時計をチラリと見た瞬間、生垣は扉に逃げるように向かっていた。
「あんなのまともに相手しちゃダメよ?自分の言いたいことしか言わないんだから。」
「肝に銘じておきます…。」
その言葉を聞くと中島はニコリと笑い自分の席に座る。
肝に銘じておくとは言ったがシュウジの性格的にそれは難しいことも彼は悟っていた。




