マッチング
「…で、動物は殺人罪とかそういうのにはならないっていうの!器物破損だって!信じられないわよ!あの子は家族だったのに…弟なんかよりよっぽど大事にしてたのよ?ましてや、ゾンビによる被害は刑法なんたらで責任能力がどうたら言って煙に撒こうとした上にゾンビは無罪。信じられる!?」
プロフィール欄で見かけた犬を飼っているというワードから話題を作ったのが失敗だった。
完全に地雷を踏み抜いた上にそのまま歩いて爆発させてしまった。
シュウジはゾンビに向ける笑顔と同じものをこの女に向けながら同情してるふりをする。
「それはひどい。もうゾンビなんだから君に何かしら権利があってもいいのに。」
心にもない、そして仕事上倫理的にアウトな発言をしてしまったことで少し周りを見渡す。
見知った顔はなくこちらを見ている人間もいない。
正直なところ、ゾンビは駆除すべきというのが大衆の意見でありそれに物申すのは遺族と自称活動家たちくらいだ。
そんなことを考えながら聞き逃し不機嫌になられると嫌なので耳も傾ける。
この子は圧倒的ナシだな。
などと考えながらも人に悪感情を向けられるのが苦手なシュウジは愛想よく振る舞う。
人の気持ちも考えずこの女はぺちゃくちゃぺちゃくちゃと自分のことを話し続ける。
出会いを求めているというよりは飯付きで愚痴をこぼす相手を求めているようだ。
打てども打てどもか…。
目の前にいる女とゾンビに話しかける彼の違いが一体どこにあるんだろうとだんだん憂鬱な気分になる。
「でもさ、シュウジくんさ。やっぱり人間だよね。」
「俺が君を食べそうに見える?」
そんな冗談を飛ばすと女はバカみたいに笑う。
「違う意味では食べられちゃいそうだけど!」
よくもそんな下品なことを大声で言える。
呆れを通り越して可哀そうに思える。
「でもさ、違くてね。いつ誰がゾンビになるかもわからないのに恋人探しなんてめちゃくちゃ人間じゃん。」
自分が考えていたことそのままを当てられたような気がして一瞬ぽかんとする。
すぐに満面の笑みに切り替えて
「俺は寂しがりやだからね。1人じゃ死んじゃうからゾンビでも一緒にいてくれるほうがいい。」
話し出して自分の口調が少し沈んでしまったことに気づく。
その言葉を聞いて女はさっきまでの下品な雰囲気が嘘のように大人の表情を見せる。
「シュウジくんはあれだね。ほんと人間臭いね。人に合わせるのは得意なのにどうしようもなく自分を出してしまう時がある。」
どきりとしながらもこんな女に自分の何がわかると少し癪に触ったがいつもの調子を取り戻し笑顔を作る。
「そうだね。僕はどうしようもなく人間だよ。」
「ふふ、文学的なこと。私気に入っちゃた、あなた。」
勘弁してくれと思いながら先程までのナシであった女から印象は変わっていた。
なぜか歯痒くなり思わず黙ってしまう。
その様子を見てか女は立ち上がり伝票を摘む。
「そろそろ行こっか。私の話聞いて疲れたっしょ?」
「そんなことないよ。」
楽しかったというには内容があまり好ましくないものだったので続く言葉を飲み込む。
その反応を見てにっと笑った女は伝票をひらひらさせながら会計に向かう。
勝手に奢られ女子だと思っていた自分に嫌悪感を催す。
ふとあの女の名前はなんだったかと思いアプリを開く。
少し珍しい名前。
どこにでもいるような自分勝手な女のはずなのに意味のわからない二面性にシュウジは惹かれていた。




