ゾンビに携わる人
「シュウジくん。お疲れ様。今日も打てども打てどもと言った感じだったね。」
尋問を終えたシュウジを労うようにインスタントのコーヒーが差し出される。
「中島さん、それは違いますよ。」
中島と呼ばれた男以外にこの10畳もない事務所に人はいない。
なんとも寂しい部屋で中島は興味深そうに少ない髭を摩り黙って先を促す。
「相手は投げたボールを獲りもしないし打ち返しもしない。それはそうですけど僕からしたらこっちもちゃんと相手を見て狙って投げているという感覚でもないんですよ。」
「んー。不毛だねぇ、それは。」
人ごとのように唸る中島を尻目にシュウジは今日の尋問の内容の記録音声と報告書を提出するためにパソコンのメールを開く。
「今度は俺がやろうか?」
そういう中島を一切見ないままシュウジは鼻を鳴らす。
「それで何か変わると思いますか?」
「まあ、変わらないだろうねえ。」
語尾が甘ったるい中島に少し嫌悪感を感じることに自分の小ささを覚え伸びをして誤魔化す。
「僕だって最初は誠心誠意込めて話してましたしあわよくばこれで治って一躍ヒーローなんて思いましたけど…。」
「俺は意味ないと思ってたけどね。」
話の途中で投げやりな感じで言葉を挟む中島を軽く睨むと舌を出し、いっけねと言った調子で自分のデスクに向かう。
「シュレディンガーの猫でしたっけ?干渉することで結果が変わるみたいな。ほんと科学者って頭が良すぎてバカですよね。がんじがらめで動きが取れなくなって結局干渉することで治るんじゃないかなんて…」
「そんな悪くいうもんじゃないよ。打てども響かなくともこれでおまんま食べてんだからゾンビどもにも感謝だよ。」
「それは違うと思いますけど…。まあいいです。中島さん、今日ご飯行きましょ。」
「悪い。今日の夜は家族サービスしなきゃ。明日休みだから夜中から車出して下呂行くんだよ。」
「ご家族ならしょうがないっす。」
そう言いながらも少しむくれたようなシュウジを見て中島はまた今度、また今度なと繰り返す。
中島の家族の話を聞いて今日も1人か、と心の中で呟く。
寂しいわけではないが彼女くらい作らなければなとも思う。
とは言っても今の時代、大事な人を増やすのはリスクにしかなり得ないわけで。
しかし、人は合理性に欠けることをする生き物である。
そんなことを偉そうに考えながらシュウジはマッチングアプリの今日会える人の欄をスワイプしていく。




