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女子3日会わざれば

シュウジは頭の中を巡る問題たちのことを考えると呼吸が浅くなる。

突然の訃報にショックを受けながらも頭の中では今日の予定のことでいっぱいだった。


ドタキャンはしたくない。

ようやく約束できた2回目のご飯だ。

今日か次には決めたい。


どちらのストレスも大きく、中島のことを思うと罪悪感に襲われて桔梗のことを思うと予定が狂うことに苛立ちを覚える。

そしてそんなことを考えてしまう自分に嫌悪感を覚えていた。


時間は刻一刻とすぎていく。

断るにしても早く決断しないといけない。

気づけば約束の時間まであと1時間だった。


結局のところ彼にとって1番被害が少ない選択をすることにした。

起こってしまった、そして変えられないことを気にしてもしょうがない。

それに釣られてこれからのことまで悪い方向にいってしまうのは1番悪手な選択である。


ネットで調べたところによるとこの騒動に関してシュウジの影すら見当たらない。

もう彼の身元まで判明して張り込まれているということはないだろう。

しかし、どこかで漏れていて、来ているものもいるかもしれない。

それに捕まれば今後の行動はさらに難しくなるだろう。


極力肌の出ない格好に着替えて鏡の前に立つ。

その姿はあたかも後ろめたいことがあり身元がバレたくない人間だと言っているようなものだった。


出る前に気づいてよかった。

自然に出ればいい。

最低限顔がわからないような格好で。

コンビニに行く若者、パーカーのフードを被りマスクと眼鏡をかける。

荷物は最小限に、ちょっと出かけるだけなのに荷物が多いのは変だ。


デートなのにこんな格好で行くのはなんとも気分は下がるし相手の目も気になるが背に腹は変えられない。

会いに行くことが第一目標だ。


『ごめん!

時間的に仕事終わりのままで行くことになる!

着替えたりしたかった涙』


一応の言い訳の連絡を入れておく。

杞憂であればいいが気合いが入っていないとは思われたくない。


扉の覗き窓から外を見る。

目の前には誰もいない。

少し戸を開けて顔を出す。

やはり誰かが張っている様子はない。


少し安心しつつも気合を入れ直し普段なら部屋のある五階からエレベーターで降りるところを裏口から出るため足音を殺して階段から降りていく。



最寄りの駅に着くとすっかり拍子抜けしたように力が抜ける。


考えすぎだったんだ。

誰も自分のことなんて気にしてないのに…恥ずかしいやつ。


そんなことを思い、薬と自虐的に笑うと目的の駅まで電車に乗る。




「お待たせ〜!遅くなっちゃったぁ。」


間延びした元気な声が改札前に響く。


「お疲れさん!俺も来てからそんな経ってないよ。」


「嘘はよくないね、ワトソン君…集合時間30分近くすぎてる。君も遅刻したとでもいうのかね?」


ひょこっと首を傾げてシュウジを見つめる目線にドキリとする。


「正直いうと30分近く待ってるよね、ホームズ。」


その一言を聞くと桔梗は周りの目も気にせず大笑いをする。


「ごめんごめん、まじごめんね。ハゲ親父が今日に限って仕事大量に回してきてさぁ…」


マシンガンの引き金が引かれた気がした。

その引き金を引き切られる前にシュウジは提案する。


「立ち話もなんだし、先にお店行こうか。遅れるって伝えてあるし。」


「おっけー。どこら辺だっけ?」


シュウジは地図アプリを開くと桔梗はすぐそばに来て覗き込む。

体がほぼ密着状態でいい香りがする。

前回はもっと香水らしい匂いだった気がするが今日は金木犀のような匂いがする。




地図を覗き込んだくせに桔梗は道などそっちのけで話し続けている。


「課長なんだけどね…」「少し若いってだけでお局さんは…」「目線がサイヤク…」


シュウジはキャッチボールができない話に作り笑いを浮かべる。

どうしてこの女に興味を持ったのか忘れてしまう。


だが、この感覚だ。

前回この感覚に陥ってから不覚にも違う一面を見せられ興味を持ってしまった。

今回もその期待を抱きながらあれは幻だったのかもしれないと不安になる。


「あ。」


不意に桔梗のマシンガンが撃ち止む。

それどころか歩くことすら辞めている。


「どうした?なんかある?」


二面性に引かれたが今回はどこか違う気がする。

一切の外的情報を受け付けていないように見える。


「桔梗…?」


その言葉を聞いた瞬間、バッと振り向き桔梗の目はシュウジを捉える。

いきなり目があったことに少し驚き、たじろく彼を見て桔梗は優しい笑みを見せる。


「ありがとう、シュウジ君。やっと終わった。」


先ほどの放心状態とはまた違う。

しかしキャッチボールができない彼女とも違った。


「あれ?桔梗…大丈夫?」


「そう、私は桔梗。シュウジ君のおかげで桔梗になれた。感謝してもしきれないよ。」


声を震わせながら桔梗は突然シュウジに抱きつく。


「え!?え?どうした?」


周囲の目が気になり抱きついてきた桔梗を見るより先に周りを見渡す。


シュウジの胸に顔を埋めながら桔梗は深く息を吐く。

その吐息の温かさが胸に染み渡るような気がしてシュウジは少し腰が引け前屈みになる。


「君になら教えても…いいかな?というよりも…知って欲しい?」


明らかに大事なことを話そうとしている。

だがそれはきっとシュウジにとって得でもなんでもない気がする。

悩みの種にしかなりえないような。

しかし、その逃げようとする気持ちとは裏腹に好奇心が後ろ髪を引かれる。

結果的に彼は黙ったまま桔梗の言葉の続きを待つ。


胸が少しひんやりして気づいたが桔梗はどうやら泣いてるらしい。

思わず背中と頭に手を回し支える。


「ありがとう…。シュウジ君は私を初めて桔梗として呼んでくれた人だし、私が初めて好きになった人…だから愛花だった私を…桔梗になるまでの話を…聞いて欲しい。」


「桔梗に…なるまで?」


彼女は胸の中で小さく頷く。


シュウジの内心にはここで話すことだろうかということと予約を遅らせてまで待っているお店をこのままではドタキャンしてしまうことになるという考えが回っていた。


その気持ちを汲んだのか桔梗は顔を上げるとにっこりと笑う。

その目は潤み彼女の目を綺麗に飾り立てている。


「でも、まずはお店…だね?行こっか。」


考えを見透かされた気がして恥ずかしかった。


シュウジの手を引く桔梗の手の柔らかさに少しドキドキしながら不安と情けなさを抱えながらまだ夕陽に目を細めながらすすんでいく。

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