好きな子に意地悪しちゃう系婚約者(6歳)の性根を、前世の記憶で叩き直すことにしました ~私だって6歳だけど中身はおばちゃんなので容赦しません~
ぶちっ、と音がした。
三つ編みが引っ張られる感覚。体が傾いて、膝が石畳を打つ。じん、と痛い。遅れて、涙が勝手にあふれた。
「泣くなよ、つまんねえの」
見上げた先に、灰色の目をした男の子がいた。
エドガー・ノルドヴァルト。ノルドヴァルト公爵家の嫡男。わたしの、婚約者。
六歳。
「まあまあ、子どものすることですもの」
母の声が、どこか遠くから聞こえた。その後ろで、エドガーの父──ヘルムート・ノルドヴァルト公爵が腕を組み、にやりと笑っている。
「男は多少荒っぽいくらいがいい。なあ、エドガー」
「うん!」
得意げに胸を張る六歳児。周囲の大人たちが、温かいまなざしで笑う。
──ああ。
膝が痛い。涙が止まらない。なのに、頭の中だけが妙に静かだった。
パチン、と何かが弾けた。
急に、視界の色が変わる。庭園の薔薇の赤。空の青。石畳の白。全部が鮮明に見えて、同時に、ぐるぐると何かが溢れてきた。
──朝六時半のアラーム。冷蔵庫に貼りっぱなしの連絡プリント。職員室の長机。保護者からの電話。年度末の報告書。学校帰りの息子のランドセル。末っ子の泣き顔。
前世の記憶だった。
松田敏子。五十三歳。三児の母。PTA会長歴八年。
好きな子に意地悪するタイプの男の子なら、何十人も見てきた。そして──叱ってくれる大人がいなかった子がどうなるかも、知っている。
(この子、今のうちにどうにかしないと、将来ロクな大人にならないわ)
笑う大人たち。得意顔の六歳児。彼を正しく叱れる人間が、この場に一人もいない。
なら。
わたしは涙を袖で拭い、立ち上がった。膝が擦りむけていて、ひりひりする。けれど、構わない。
まっすぐ、エドガーの前に立つ。
「エドガーさま」
声は震えていたと思う。でも、目は逸らさなかった。
「わたし、いたいです」
たったそれだけ。怒鳴らない。泣き叫ばない。ただ事実を、言葉にする。
前世のPTA時代に覚えた、最初の一手。──まず、自分が受けた被害を、静かに言語化する。
エドガーが、一瞬だけ固まった。灰色の目が揺れる。
「……泣くなよ」
「泣いているのは、いたいからです。いたくなければ、泣きません」
場が、すっと静まった。
大人たちの笑い声が止まる。母がわたしに駆け寄り、父が眉を寄せる。公爵夫人──マルガレーテさまの手が、扇の上できゅっと握られたのが見えた。
エドガーは何も言えなかった。
わたしはそのまま父の手を取り「帰りたいです」と言った。
それだけ。
派手な反撃でもない。大人を巻き込んだ駆け引きでもない。ただ「いたい」と言っただけ。
でも──それを、この子に面と向かって言った人間は、たぶんわたしが初めてだった。
◇
自室のベッドに並んだぬいぐるみは、熊が三体と兎が一体。
わたしはその前に正座し、腕を組んだ。
「いい? これから、わたしが話すことをよく聞いて」
熊たちは黙って聞いてくれる。さすがぬいぐるみ。モンスターペアレントよりずっと素直。
「まず現状の分析。エドガーさまの問題行動は、大きく三つ」
指を一本ずつ立てる。六歳の手は小さくて、なんだか説得力に欠ける。
「一、乱暴で相手を泣かせる。二、謝れない。三、それを注意する大人がいない」
……三つ目が一番根深い。
前世で何度も見た構図だった。問題児の裏には、必ず問題のある環境がある。子どもは真空から暴力を学ばない。誰かに教わるか、誰にも止めてもらえないか、そのどちらかだ。
エドガーの場合は後者。
公爵は「男は荒っぽいくらいがいい」と言っていた。あれは教育方針じゃない。放棄だ。
ため息をつく。ぬいぐるみの熊と目が合った。
「で、問題はここからなのよ」
わたしの立場は、伯爵家の令嬢。公爵家から見れば格下。しかも六歳。正面から「お宅の教育がなっていません」と言えるわけがない。
(前世なら校長室に乗り込んで二時間粘れたけど……さすがに六歳児にそれは無理ね)
じゃあ、どうする?
答えは一つ。エドガーに直接働きかける。大人を変えるのは後回し。まず、本人の中に「これは良くないことだ」という感覚を育てる。
前世のPTA時代、問題行動の対応には段階があった。
一、安全の確保。二、本人の気持ちを聞く。三、行動と気持ちを分けて整理する。四、代わりの行動を一緒に考える。
これを、六歳児の語彙と態度で、自然にやる。
「……よし」
熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「作戦名は──」
扉がそっと開いた。
「ロザリンド? もう寝る時間……」
父が顔を覗かせた。
わたしはぬいぐるみに向かって真剣な顔で「ごめんなさい、は?」と語りかけている最中だった。
父の目が点になった。
「…………」
「…………お父さま、ノックしてくださいまし」
「……すまない」
父が静かに扉を閉めた。
廊下から「……大丈夫なのか、うちの娘……」という呟きが漏れ聞こえた。
大丈夫です。中身は五十三歳なので。
◇
二度目の顔合わせは、半月後だった。
場所はまた公爵邸の庭園。テーブルには焼き菓子と紅茶。大人たちは少し離れた場所で談笑している。
わたしはベンチに座り、膝の上に絵本を広げていた。読んでいるふりをしながら、視線だけをそっと動かす。
エドガーは花壇の前にいた。何かを物色している。やがて、ばさっと──薔薇を一本、根元から引き抜いた。根っこに土がついている。
こちらに来る。
「やる」
差し出された薔薇。茎にはトゲがそのまま残っていて、彼の指に小さな赤い点がついていた。
(……不器用にもほどがあるわ)
けれど、前回と違って、叩きつけるようには差し出さなかった。ほんの少しだけ、ぎこちなく。
わたしはその薔薇を受け取らず、まずエドガーの手を見た。
「エドガーさま。指、血が出てます」
「え?」
自分の手を見て、ようやく気づいたらしい。
「別にこんなの平気だ」
「平気でも、いたいでしょう?」
ポケットからハンカチを出す。白い、刺繍もない、ただの布。それでエドガーの指先をそっと押さえた。
彼が、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
「……なんで」
「なんで、って?」
「俺、お前泣かせたのに」
灰色の目が、こちらを見ている。あの日と同じ目。意地悪をしたあとに、必ずこちらの反応を確認するような──
(ああ、この子。反応が欲しいだけなのね)
嫌われたいわけじゃない。ただ、どうすれば相手が自分を見てくれるのかがわからない。だから、一番確実に反応が返ってくる方法──乱暴──を繰り返す。
前世でも、そういう子はたくさんいた。
「お花を摘んでくれたのは、うれしいです」
わたしはそう言ってから、引き抜かれた薔薇を見た。根がむき出しで、土がぽろぽろ落ちている。
「でも……この子、根っこごと抜かれて、びっくりしてるかも」
「……花だぞ?」
「お花にも、おうちがあるの。土の中が、おうち」
しばらく沈黙があった。エドガーは薔薇と花壇を交互に見て、うなだれた。
「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
「はさみで切るの。そうすれば、お花はきれいなまま」
「……知らなかった」
小さな声。
(そうよ。知らないだけなの。この子は、ただ知らないだけ)
誰かが教えてあげればいい。花の摘み方も、人への接し方も。
その時、後ろから足音がした。振り返ると、公爵夫人マルガレーテさまが立っていた。穏やかに微笑んでいるけれど、目元がほんのわずかに赤い。
「ロザリンドさま」
「はい」
夫人がそっと腰をかがめ、わたしの目線に合わせた。
「あの子のこと……嫌いにならないでくださいね」
声が、かすかに震えていた。
わたしは夫人の目をまっすぐ見て、ゆっくりと首を振った。
「嫌いじゃないです。──ほんとうに」
夫人の瞳が揺れた。それ以上は何も言わず、夫人は小さく頭を下げて去っていった。
(あの人も、ずっと困っていたんだわ)
でも、公爵には逆らえない。息子を叱りたくても、夫に止められる。だから「嫌いにならないで」としか言えない。
わたしは唇を引き結んだ。
この家には、叱れる大人がいない。公爵は放任を教育と呼び、夫人は心配を沈黙に閉じ込めている。
なら──やっぱり、わたしがやるしかない。
◇
その機会は、思ったより早く来た。
一週間後の園遊会。公爵邸の庭に、近隣貴族の子どもたちが集まっていた。
テーブルには色とりどりの菓子が並び、子どもたちが走り回っている。大人たちは木陰で談笑。穏やかな午後。
わたしは隅のベンチで紅茶をいただいていた。六歳児の体にはカップが大きくて、両手で持たないといけない。不便。
その時、甲高い声が響いた。
「弱っちいんだよ、お前!」
エドガーだった。
年下の──たぶん五歳くらいの男の子の前に仁王立ちしている。男の子の手からお菓子が落ちていた。叩き落としたのだ。
男の子の目に、みるみる涙が溜まっていく。
「う……うう……」
「泣くなって。泣くから弱いんだ」
周囲の大人たちが気づいた。けれど、目を逸らす。公爵家の嫡男に注意できる者はいない。
ヘルムート公爵が腕を組んでいるのが見えた。止めるつもりはないらしい。
(──だめだ)
わたしはカップを置いた。静かに、でも迷わず。
まず泣いている子のところへ行く。しゃがんで、目線を合わせた。
「大丈夫? いたくない?」
こくこくと頷く。落ちたお菓子の代わりに、自分のお皿から一つ渡す。
「はい。これ、おいしいの」
子どもが少しだけ笑った。──よし。まず安全確保。
それから、立ち上がった。
エドガーの前に行く。周囲の空気がぴりっと変わったのがわかった。子どもたちの声が止む。大人たちの視線がこちらに集まる。
エドガーがわたしを見下ろしている。六歳にしては背が高い。わたしは見上げる形になった。
「エドガーさま」
「なんだよ」
「あの子のお菓子を落としたのは、わざとですか」
「……わざとだよ」
「わざとなら、それは『いたずら』じゃなくて『いじめ』です」
空気が、凍った。
『いじめ』という言葉が、六歳の口から出た衝撃。子どもたちがぽかんとしている。大人たちの表情が強張った。
エドガーの顔が赤くなった。
「い、いじめじゃねえ! あいつが弱いのが──」
「弱い子のお菓子を叩き落とすのは、強いことですか」
言い返せない。灰色の目が泳ぐ。
そこに、低い声が割り込んだ。
「──伯爵家の令嬢」
ヘルムート公爵だった。木陰から歩いてきて、わたしを見下ろす。背が高い。圧が強い。前世でも体育教師に呼び出されたときにこんな気分だった。
「子どもの喧嘩に口を出すな。大人が教える」
(教えてないからこうなってるんでしょうが)
──と、心の中の松田敏子が叫んだ。けれど、表に出すのは六歳児のロザリンド。声を震わせながら、でも目は逸らさない。
「公爵さま」
「なんだ」
「おしえてほしいことが、あります」
「……ふん。言ってみろ」
「エドガーさまが誰かを泣かせたとき、公爵さまはなんと言いますか」
公爵の眉が上がった。
「男は多少荒っぽいくらいがいい、と言っている」
「それは"おしえて"いるんですか?」
間。
「それとも"ゆるして"いるんですか?」
庭園から、音が消えた。風が薔薇の垣根を揺らす音だけが残る。
子どもたちは動けない。大人たちは目を見開いている。わたしの父が一歩踏み出しかけて、母に袖を掴まれて止まった。
公爵の表情が固まった。
「……口が過ぎるぞ、小娘」
「すみません。でも……」
声が震える。怖い。本当に怖い。六歳の体は正直で、足が少しだけ震えていた。
でも──前世で、末っ子に泣かれたあの日のことを思い出す。「お母さんはいつも怒ってばかり」と言われた日。叱りすぎて、関係がこじれた日。あの時学んだことがある。叱ることから逃げたら、もっと取り返しのつかないことになる。
「ゆるすことと、おしえないことは、ちがうと思います」
その一言が、公爵に届いたかどうかはわからない。
けれど──周囲には、届いていた。
近隣の貴族たちの目が、公爵に向いている。品定めするような、静かな視線。「公爵家の教育」の実態を、今この場の全員が見ている。
公爵夫人マルガレーテさまが、一歩前に出た。
「……まあ」
扇を閉じる音が、ぱちん、と小さく鳴った。
「子どもの言うこと、ですわ。けれど──一理、ありますわね」
夫人がそう言った瞬間、公爵の肩がわずかに落ちた。
妻に、公の場で追認された。それが何を意味するか、この場の大人たちは全員わかっている。
公爵は一瞬唇を引き結び──何も言わずに、踵を返した。
去り際の背中が、少しだけ小さく見えた。
……ざまぁ、とは思わなかった。思えなかった。
あの人も、知らないだけなのかもしれない。「教える」のやり方を。
(でも──今日ここで、気づいてくれたなら)
それは大人の仕事だ。わたしの仕事はここじゃない。
振り返ると、エドガーが立ちすくんでいた。
全部、見ていた。六歳の小さな体で公爵の前に立ったわたしを。声を震わせながら、それでも言い返したわたしを。
「……お前、こわくないの? 父上が」
「こわいわ」
正直に言った。足、まだ震えてるし。
「でも、エドガーさまがこのまま大きくなるほうが、もっとこわい」
エドガーの目が見開かれた。唇が震える。
「なん、で……」
「だって、誰も叱ってくれなかったら、エドガーさまはずっと一人よ。誰かを泣かせて、みんなに怖がられて──それで、嬉しい?」
沈黙。
長い、長い六歳児の沈黙。
やがて──灰色の目から、涙がこぼれた。
声を出さなかった。拳をぎゅっと握って、歯を食いしばって。「強い男は泣かない」と教えられてきたこの子が、人前で初めて泣いていた。
(──ああ)
前世の記憶がちらつく。末っ子が泣いた日。「叱りすぎた」と自分を責めた夜。でも、あの後に学んだ。叱ることと、寄り添うことは、同時にできるのだと。
ポケットからハンカチを出す。さっき、花壇でエドガーの指を拭いたのと同じ、白いハンカチ。
エドガーの前にしゃがんだ。涙を拭く。さっき泣いていたあの子にしたのと、同じ動作で。
「泣いてもいいの」
声が少しかすれた。
「泣けるのは、自分がまちがったって気づいたからよ」
エドガーが、くしゃりと顔を歪めた。涙を止められないことが悔しいのか、恥ずかしいのか。でも──逃げなかった。
「……あいつに」
震える声。
「……ごめんって、言う」
言えた。
わたしの中で、何かがほどけた。
「──言えたじゃない。えらいわ。最初の一歩よ」
その言葉は、六歳のロザリンドの声で出た。でも、中身は五十三歳の松田敏子だった。何十人もの子どもたちを見てきた、あのおばちゃんだった。
エドガーがぐしぐしと目を擦り、お菓子を叩き落としたあの子のところへ歩いていく。小さな背中。まだ震えている。
「……さっきは、悪かった」
ぎこちなくて、短い。でも──逃げていない。
あの子がきょとんとして、それから小さく笑った。
「うん。もう平気」
わたしはベンチに座って、それを見ていた。
胸が痛い。でも嫌な痛みじゃない。
(この子は、変われる)
六歳。まだ間に合う。
◇
翌朝、公爵邸から伯爵家に一通の手紙が届いた。
公爵夫人マルガレーテさまからだった。中身は、母が読み上げてくれた。
『──昨日のこと、お詫び申し上げます。そして……ありがとうございます。あの子には、叱ってくれる人が必要でした。母親である私が、それをできなかったことを恥じております──』
母が手紙を閉じ、わたしを見た。
「ロザリンド。婚約のこと……お父さまが、解消してもいいと言っているの」
……そうだろうと思った。昨日の園遊会のことは、父にも伝わっている。娘が公爵に面と向かって意見したのだ。心配しないわけがない。
「ねえ、お母さま」
「なに?」
「わたし、まだあの子のそばにいたいの」
母が目を瞬いた。
「……どうして?」
(どうしてかって? そんなの決まってる。教育は途中で投げ出しちゃダメだからよ)
──と、心の中の松田敏子は即答した。
でも。
六歳のロザリンドは、少しだけ違う答えを口にした。
「……あの子が泣いたとき、ちゃんと泣けたから」
わたしの言葉に、母はしばらく黙っていた。それから、わたしの頭をそっと撫でた。
「……わかったわ」
こうして、婚約は続くことになった。
これから十年。長い長い、婚約者矯正計画が始まる。
──容赦はしない。だって、おばちゃんだもの。
◇
十年後。
王立学園の中庭。秋の風が、銀杏の葉を巻き上げていた。
「ロザリンド」
隣を歩く声が、いつの間にか、ずいぶん低くなっていた。
エドガー・ノルドヴァルト。十六歳。背が伸びて、声が変わって、あの泣き虫の六歳児は見る影もない。──いや、嘘。灰色の目だけは、あの頃と同じだ。
「なに?」
「六歳のとき、お前に言われたこと」
「……どれ? いっぱい叱ったけど」
「全部覚えてる」
足が止まった。わたしのじゃない。エドガーの。
振り返ると、まっすぐな目がこちらを見ていた。
「あの日、お前だけが俺を叱ってくれた」
「……」
「周りは全員笑って許してた。父上も、母上も。──でも、お前だけが、俺にちゃんとしろって言った」
秋風が吹いた。銀杏の葉が、二人の間をひらりと通り抜ける。
エドガーのポケットから、白い布が覗いていた。
見覚えがある。
刺繍もない。もうくたびれて、端がほつれている。あの日──六歳のエドガーの涙を拭いた、ただの白いハンカチ。
「……それ……」
「ずっと持ってた」
さらりと言う。十年分の重さを、たった一言で。
「だから俺は、お前の隣にいたい。婚約者だからじゃない」
エドガーが一歩近づいた。大きな手が、ゆっくりとこちらに差し出される。その手には──丁寧に切り口が揃えられた、薔薇の花束。根っこは、ついていない。
「俺が選んで、ここにいる」
(──やだ。この展開は想定外よ、松田敏子)
頬が熱い。五十三歳のおばちゃんの記憶が総動員で冷静さを保とうとしているのに、十六歳の心臓がうるさくて邪魔。
薔薇を受け取った。指先が触れた。あの日みたいにトゲで血が出ていないか、思わず確認してしまう。
「……きれいに切れてるじゃない」
「お前が教えてくれただろ。はさみで切れって」
──ああ、もう。
「あなたを叱った甲斐が、ありました」
前世五十三歳、今世十六歳。わたしの一番の教え子が、笑った。あの日泣いた灰色の目が、いま、ちゃんと笑っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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