俺と魔王と内緒のおやつ
俺はドアの前で一度、深く呼吸を整えた。
――五年前、雨の森でこの子を見つけた日のことを思い出す。
「ふっ……」
あの時の「復讐の道具を見つけた」という冷徹な高揚感とは、少し違う感情が胸をよぎり、思わず笑みがこぼれた。
勢いよくドアを開ける。
「遅くなってすまない」
ベッドの上で胡坐をかいていたノインは、これ以上は膨らまないだろうというほど頬を膨らませていた。
「……遅い」
ぷりぷりと怒りながら放たれた一言。
(……くっ、かわいい……!)
漆黒の兜の中で、俺の表情がだらしなく崩れる。
「ははは、悪かった。さあ、読み聞かせを始めよう。人間の絵本が見たいんだったな?」
俺は昼間、街の書店でこっそり買い求めた絵本を数冊、ベッドの上に並べた。
「どれがいい?」
ノインはプイと横を向く。口は尖らせたままだ。
(……クソッ、なんて可愛さだ。魔王の血筋、恐るべし……!)
「ノイン……実は、街で美味そうなお菓子も買ってきたんだ。絵本を読みながら、一緒に食べよう。グリルには内緒だぞ?」
その言葉を聞いた瞬間、ノインの頬から空気が抜け、瞳が星のように輝き出した。
「ほんと!? うん、食べる! じゃあ……これにする!」
ノインが指差したのは、よりによって『正義の騎士が悪い竜を倒す話』だった。
「よし。……さあ、始めようか」
俺は黄金の剣(今はバターナイフ以下の扱いだ)を傍らに置き、未来の魔王を膝に乗せて、ページをめくった。




