第十九話:血の繋がりを超えて
思えば、ノインとこうしてゆっくり語り合うのはいつぶりだろうか。
日々の喧騒に追われ、この小さな肩にどれほどの寂しさを背負わせていたのか。そう思うだけで、胸の奥が締め付けられるように痛む。
「学校の勉強はどうだ?」
「うん、大丈夫。勉強は楽しいんだ」
ノインは屈託のない笑顔で答える。
「そうか……」
返事をした後、俺は押し黙ってしまった。
ノインが心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
「パパ……? どうしたの?」
「ああ……」
言葉が喉に突き刺さって、なかなか出てこない。だが、俺は彼にすべてを話さなければならない。魔王の種として生まれたこと、俺が彼を殺すはずだった勇者の息子であること、そして、彼に仇なそうとしている実の兄の存在。
すべてを知った後、それでも彼が俺を「パパ」と呼んでくれるなら、その時はこの命に代えても彼を守り抜こう。
「ノイン、パパの話を聞いてくれるか?」
俺は優しく、そして静かに語り始めた。失意の中、森の朽ち果てた小屋で彼を見つけたあの日のことから。
***
ノインは、一言も発さずに俺の話を聞いていた。
語り終えた後、部屋を支配したのは重苦しい沈黙だった。俺は、彼が下すいかなる決断も甘んじて受けようと決めていた。それがたとえ、俺を激しく拒絶し、この城を出ていくという選択だったとしても。
やがて、ノインが震える声で口を開いた。
「パパは……僕のこと、好き?」
予想だにしない問いに、一瞬だけ目を見開く。だが、答えは疾うに決まっていた。
「ああ。……大好きだ」
「僕も!」
叫ぶような声と共に、ノインが俺の胸に飛び込んできた。小さな手が俺の背中をぎゅっと掴む。
「ありがとう……」
俺は、ノインを折れんばかりの力で抱きしめた。
ノインの中で、どれほどの葛藤があっただろうか。俺は彼の一族を滅ぼし、彼自身をも手にかけようとした側の人間なのだ。恨まれても、憎まれても仕方ないことをしてきた。
だが、ノインはすべてを聞いた上で、俺を許し、変わらぬ愛をくれた。
――もう、迷いはない。
聖剣を復活させ、そして俺はゼノスを討つ。
この世界と、愛すべきすべての人々。そして、何よりも俺を信じてくれたこの息子を守り抜くために。




