第四話:美男美女の来襲と、崩れゆく一般人の壁
ざわざわ、ざわざわ……。
先ほどまでの微笑ましい空気はどこへやら、教室の外が異様な騒がしさに包まれた。
「ちょっと、あの方どなたのお母様かしら……信じられないくらい綺麗だわ」
「隣のお父様も素敵ねぇ。なんていうか、うちの旦那と人種が違うみたい……モデルかしら?」
さっきまで俺を「自称・勇者のパパ」として半笑いで見ていた奥様方が、今はうっとりと目を輝かせ、ため息を漏らしている。
嫌な予感がして、俺は教室の窓から廊下を覗き見た。
そこに立っていたのは、銀髪をなびかせ凛とした美貌を誇るリリスと、騎士らしい気品と端正な顔立ちを隠しきれていないヴィンセントだった。二人が並ぶと、そこだけスポットライトが当たっているかのように眩しい。
俺は心臓が口から飛び出しそうな勢いで、二人のもとへ駆け寄った。
「お前ら……何しに来たんだ!」
声を潜めて、しかし必死に詰め寄る。するとヴィンセントが、さも当然といった風に肩をすくめた。
「いや〜、リリスちゃんがカイトの晴れ舞台を見たいって言うからさ。俺も見たかったし。聞けば昨日の晩に、絶対来るなってお前に言われたって? 駄目じゃないか、そんなこと言ったら。お前もリリスちゃんにもっと優しくしてあげないとなぁ」
リリスはと言えば、いつになくお淑やかな淑女のフリをして、頬を少し赤らめている。
「……ヴェイル様、いえ、お父様。カイト様の発表、素晴らしかったです。廊下までしっかり聞こえておりましたよ」
こいつら……!
俺の「隠密参観」という計画が、この目立ちすぎる二人の登場によって一瞬で崩壊した。案の定、周囲の奥様方の視線が、俺とこの美男美女の間を激しく往復している。
「あら、あの方たちお知り合いなの?」
「お友達かしら? それにしても、あのお母様、さっきカイト君が言ってた『リリスお姉ちゃん』じゃない?」
マズい。非常にマズい。
このままだと「伝説の勇者(自称)」の正体が、この浮世離れした仲間たちのせいで、あらぬ方向に疑われ始める。
その時、教卓からリナ先生がこちらに歩み寄ってきた。
「カイト君のお父様、あちらの方は……カイト君が作文で言っていたお友達ですか?」
リナ先生の瞳は好奇心に満ちている。俺は冷や汗を拭いながら、必死に脳細胞を回転させた。




