第十六話:光の果てに(2)
あたたかく、真綿に包まれているような柔らかい光の中で、俺は静かに目を覚ました。
「ここは……どこだ? 俺は死んだのか?」
周りを見渡そうとするが、頭を貫くような痛みに顔をしかめる。
俺は確か……アイギスの山頂で……ノインと……。
「ノイン!」
弾かれたように立ち上がり、俺はがむしゃらに光の中を探し回った。どこに居るんだ、ノイン。
やがて、光のカーテンを抜けた先に、一人の少年を見つけた。
「ノイン……」
俺の声に応えるように、ノインがゆっくりとこちらを振り返り、微笑んだ。
そこにはもう魔王の面影などなく、あの頃の、澄んだ瞳をしたノインが立っていた。
「ヴェイル……」
ノインが静かに語り始める。その声は優しく、それでいて胸が締め付けられるほど切なかった。
「ヴェイル……僕は人間がうらやましいんだ。パパやママに囲まれて、幸せに暮らす人間が。僕にはパパもママもいないから……」
ノインは一歩、俺の方へ歩み寄る。
「実はね……僕は、ヴェイルがパパだったらいいなって、ずっと思ってたんだ。なのに……ヴェイルは僕の前から突然いなくなった。悲しくて、寂しくて……そしたら、自分のことが分からなくなったんだ」
ノインの瞳に涙が溜まっていく。
「何も見えない、何も聞こえない闇の中で、『勇者を殺せ』って言うヴェイルの言葉だけが、僕の頭に響き続けていた。……でもね、あの光が僕の胸に流れ込んできて、闇が照らされたんだ。そして、僕の名前を呼ぶヴェイルの声が聞こえた」
俺は膝をつき、ノインの小さな肩を震える手で掴んだ。視界が涙で歪む。
「ノイン……すまなかった。すべては……俺の、下らない復讐だったんだ。俺が、お前を道具にしてしまったんだ……」
ノインは俺の言葉を遮るようにニコッと笑うと、首を振って「大丈夫」と答えた。そして、そっと俺の手を握る。
「ねえ、ヴェイル……。僕のパパになってよ」
その純粋すぎる願いに、俺の胸は熱い塊で満たされた。復讐も、偽りの勇者の名も、今はどうでもいい。ただ、目の前のこの子を守りたい。
「ああ……。約束する。俺がお前の父親だ」
俺は力強く頷いた。
この光の世界で、俺はノインの父として生きることを誓った。
その瞬間、光がさらに眩しさを増し、俺とノインの体を優しく空へと押し上げた。
冷たい雨の音も、雷鳴の轟きも、もう聞こえなかった。




